研究課題/領域番号 |
16K18324
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
生島 一樹 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 特認助教 (80734003)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 非線形有限要素解析 / 溶接変形 / 座屈 / 防撓構造 |
研究実績の概要 |
船体構造などの大型薄板構造物の溶接時においては、幾何学非線形に起因する座屈などの大変形現象が生じる場合が想定される。座屈を生じない場合においても、幾何学的非線形性を考慮することで、崩壊挙動解析において、初期不整となり得る溶接変形を高精度に解析することにつながる。本年度は、溶接により発生する座屈を含む大変形現象を高精度に解析するために、理想化陽解法FEMに対して幾何学的非線形性を考慮した解析手法による検討を行った。 上述の理想化陽解法FEMによる大変形溶接変形解析システムを溶接時の座屈問題に対して適用することで、大変形問題における理想化陽解法FEMの適用性を検証した。本年度は、 検討対象として、T継手などの基礎溶接継手や、数本から10本程度の補剛材を有する簡単な防撓構造における溶接中の座屈問題を解析した。 T継手の解析においては、入熱量や溶接速度が変形に及ぼす影響について検討した、その結果、理想化陽解法FEMに基づく解析システムにおいて、入熱量の増加に伴い発生する大きな座屈形式の変形を再現できることを確認した。また、溶接速度を変化させることで、同じ入熱量においても変形形式が異なる可能性があることを確認した。 防撓構造製作時の溶接変形に関して、長手方向に1200mm、幅方向に600mmのスキンプレートに対して、高さ50mmの補剛材を長手方向に2本、幅方向に3本を径10回の溶接により接合する試験体を製作し、同様の解析を実施することで、理想化陽解法FEMに基づく解析システムの妥当性について検討した。その結果、解析と実験の両方において、ねじれ形式の大きな座屈が発生することを確認した。また、変形量が実験と解析で良好に一致することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、大規模構造解析が可能な理想化陽解法FEMに対して、大変形の効果を導入することで、船体構造をはじめとする大型薄板構造の幾何学的非線形問題の解析をできる大規模解析システムの構築を目標として研究を実施した。 開発した解析システムの妥当性を検証するために、開発システムを基礎的な溶接継手、および、簡易防撓構造の溶接製作時の変形予測に対して適用し、検討を実施した。基礎継手の解析においては、溶接速度や入熱量などの種々の条件が溶接変形に及ぼす影響について検討することで、基礎継手における座屈変形の発生条件について整理した。また、簡易防撓構造の解析においては、解析と同等の手順で溶接試験体を製作し、溶接後の変形量を試験体の変形量と比較することで、解析手法の妥当性について示した。 以上のように、本研究では、平成28年度において実施を計画していた、溶接時の大変形現象を予測可能なシステムの開発、および、その解析結果の妥当性についての検討を概ね実施できていることから、本研究は計画通りに進捗しているものと言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、溶接を用いて製作される大型薄板構造物の最終強度解析および崩壊挙動解析の高精度化を行うために、溶接時の残留応力や変形の影響を考慮可能な解析手法の構築を目標としている。 平成28年度までの研究成果により、座屈をはじめとする溶接時の大変形現象を解析可能なシステムを理想化陽解法FEMに基づき構築した。これにより、溶接により発生する変形を高精度に予測することが可能となり、この変形予測結果を最終強度予測時の初期不整として用いることが可能である。 平成29年度は、理想化陽解法FEMに基づき、構造物の座屈崩壊挙動を解析可能なシステムを構築する。座屈を含む大変形現象のモデル化においては、Total Lagrange法に加えて、Updated Lagrange法を理想化陽解法FEMに対して導入し、両手法による解析結果の違いについても比較、検討を行う。また、静的解法、動的解法を用いた場合のそれぞれにおける挙動の違いについても検討する。 最終年度である平成30年度は、平成29年度までに開発される高精度大規模溶接変形予測システムと最終強度予測システムを統合することで、溶接変形や残留応力が崩壊挙動に及ぼす影響について検討する。解析においては、従来の構造解析比べて解析規模が飛躍的に大きくなり、解析が困難になることが予想される。理想化陽解法FEMはGPU並列化に対して非常に高い親和性を有しているため、本解析においては、GPUワークステーションの使用を想定している。また、マルチグリッド法を導入した手法を用いることで、解析の効率化を図り、実用可能な計算時間での解析を目指す。
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