本研究において高温液体金属であるリチウム鉛の熱流動現象を調査することを目的としている.流速計測法には超音波ドップラー流速分布計測法(UDV)を採用して,本年度は以下のとおり研究を実施して結果を得た. 本研究によりリチウム鉛への超音波伝達を得るにはプローブをリチウム鉛に導入する前に液温以上に昇温する必要があることが明らかとなった.この要因としてリチウム鉛の液温以下の状態でプローブを導入することで,冷温部にリチウム鉛中の酸化物粒子が凝集し,界面における超音波の伝播を妨げていると推察された.それに加え,プローブ導入時に自由界面に凝集している酸化物粒子の付着を避ける必要があることを明らかとなった.一連の調査により極微量の微粒子であってもプローブ端面に付着すると界面状態が変化し,界面における超音波伝達を阻害したと推察された. また,長時間リチウム鉛に浸漬する場合においてもプローブ端面の表面状態が変化し超音波伝達性が悪化することが明らかとなった.リチウム鉛を溶解する酢酸試薬を用いて実験後にプローブ端面を洗浄していたが,長時間浸漬時に酢酸試薬には溶解しない化合物の薄層の形成が示唆された.本研究にいてはプローブ端面の材料にはリチウム鉛と濡れが良く音響結合性の良い純チタンを用いている.浸漬後のチタン試験片をX線光電分光法による表面分析して,リチウム鉛と接液したチタンには表面に酸化物の薄層が存在することを確認した.この分析に基づき,このような薄層であってもチタン酸化物が存在することで界面における音響インピーダンスが変化することで超音波伝達の悪化を招いていることが推察された.それに対して表面研磨によりチタン酸化物を除去し界面における良好な超音波伝達を回復することにより,流速分布の計測が可能となることを実証した.本研究により流動ループ環境下におけるUDV計測を実施するに必要な条件が明らかとなった.
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