研究課題/領域番号 |
16K18345
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
千田 太詩 東北大学, 工学研究科, 助教 (30415880)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 放射性廃棄物 / 地層処分 / ケイ酸 / 過飽和 / 析出 / ベントナイト / 核種閉じ込め / 原子力 |
研究実績の概要 |
本研究は,放射性廃棄物処分システムの埋め戻し部における粘土鉱物(ベントナイト)へのケイ酸析出挙動解明により,核種閉じ込め性能を複合的に発現する長期安定緩衝バリアの提案を目指す.とくに,膨潤性を失い止水性が低下するCa型ベントナイトへのケイ酸析出挙動に着目し,平成28年度はケイ酸の過飽和濃度(4~10 mM)および温度(15~50度)をパラメータとして実験的に検討した.ケイ酸析出実験では,固相としてCa型ベントナイトを添加したケイ酸溶液をpH 10以上から8に下げることにより過飽和状態とし,液相の水溶性ケイ酸,およびコロイド状ケイ酸の経時変化からケイ酸の析出速度を調べた. 析出実験結果からは,いずれの実験条件においても固相へケイ酸が有意に析出することが確認されると同時に,コロイド状ケイ酸の生成が観察された.ケイ酸析出後のCa型ベントナイトの比表面積は423 m2/gから約300 m2/gに減少するが比較的大きな比表面積を維持しており,ケイ酸の析出はベントナイトの有する層状構造を大きく変化させるものではないと言える.これは,ベントナイトの層状構造端部のような活性な部位へ選択的にケイ酸が析出する可能性を示唆する.また,高温条件下では,固相へのケイ酸析出量が増加する一方,コロイド状ケイ酸量が減少しており,コロイド状ケイ酸の成長,沈殿が促進されたことによるものと考えられる. 今回の種々の実験条件にて得られた析出速度定数は10E-12~10E-11 m/sの範囲に集約した.これは,ケイ酸過飽和濃度や温度が変化する場においても,析出速度定数を簡便に整理し得ることを意味する.加えて,今回得られた析出速度定数は,岩盤中の亀裂がケイ酸析出によって閉塞される可能性を示した先行研究の値と同じオーダーにあり,Ca型ベントナイトに対しても同様にケイ酸析出が核種移行を抑制する可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度に実施した,上述の種々のパラメータ設定によるCa型ベントナイトへのケイ酸析出挙動検討,および析出速度定数評価は研究実施計画に沿ったものであり,順調に進展していると考える.そして,得られた析出速度定数が核種閉じ込め性能発現の可能性を示唆したことは大きな成果であると言える. また,申請時の研究実施計画においては主にCa型ベントナイトに着目していたが,Ca型に変質する前のNa型ベントナイトに加え,高温にて変質生成するイライトについてもケイ酸析出挙動の検討に着手した.Na型ベントナイトは,変質後のCa型とのケイ酸析出挙動の比較検討に有効であるとともに,長期の時間スケールにおいてNa型とCa型が混在する場合も想定されることを考慮して検討に加えた.また,イライトは,Ca型と同様に止水性が低下することが知られており,Ca型のみならずイライトについてもケイ酸析出による核種閉じ込め性能を示すことができれば,より広範な長期安定緩衝バリアとしての機能を埋め戻し部のベントナイトに期待できる可能性がある.平成28年度に実施した予察試験においてはNa型ベントナイト,イライトともに有意なケイ酸析出が認められており,次年度以降にはCa型ベントナイトと同様にケイ酸過飽和度や温度の依存性を調べることとする.このように,当初の研究実施計画の内容が順調に進展していることに加え,検討対象の範囲を拡張した研究に踏み込んでいることを考慮して,当初の計画以上に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,当初実施を予定していたCa型ベントナイトへのケイ酸析出に関する検討については研究計画通り実施する.平成28年度の実験条件に加え,NaやClなどの共存イオンがケイ酸析出挙動に及ぼす影響について検討する.さらに,実験より得られる析出速度定数を反映したケイ酸析出に伴う流路閉塞解析を行う.流路閉塞解析は平成28年度も実施したが,流路を平行平板にて模擬した数学モデルを適用したものであったため,ベントナイトを充填した埋め戻し部の状態により近い多孔質体を模擬した数学モデルの適用を試みる.また,上述したとおり,Ca型ベントナイトに加えて,Na型ベントナイト,およびイライトについてもケイ酸析出挙動を調べ,埋め戻し部における核種閉じ込め性能の複合的な発現について論じる. なお,平成29年度は本研究の最終年度であり,学会発表や論文投稿などを通して外部有識者とも議論を行い,研究成果を取りまとめる.
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