本研究は,放射性廃棄物処分システムに多用される粘土鉱物(ベントナイト)へのケイ酸析出挙動の解明により,核種閉じ込め性能を自己発現する長期安定緩衝バリアの提案を目指す.Ca型ベントナイトへのケイ酸析出に着目した平成28年度に続き,今年度はNa型ベントナイトへのケイ酸析出を調べた.その結果,Ca型ベントナイトと同様に,Na型ベントナイトにも過飽和ケイ酸の有意な析出が確認され,析出速度定数は10E-10 m/s程度と見積もられた.この析出速度定数はCa型ベントナイトと同程度であり,Na型およびCa型のいずれのベントナイトの場合も過飽和ケイ酸の析出を同様に評価できることを示唆する.また,計画時点ではベントナイトへのケイ酸析出に関する共存イオンの影響を調べる予定だったが,NaClやCaCl2の添加によりベントナイトの交換性陽イオン(Na,Ca)が交換されることが判明した.そのため,代替の固相としてアモルファスシリカ粉末を用いて析出反応に対する共存イオン影響の基礎的知見を取得した.そして,NaイオンやCaイオンの増加に伴い析出速度定数が増大することが明らかになった.これは,電解質の添加に起因した析出促進効果によると考えられる.加えて,析出速度定数を用い,ベントナイトを想定した多孔質体の間隙閉塞について簡易試算したところ,一年未満の時間範囲で間隙が有意に閉塞される結果が得られた. 本研究より,処分場内のベントナイト充填部のようにpHが連続的に変化する場においては,ケイ酸析出に伴う間隙閉塞により核種閉じ込め性能の向上が見込める可能性が示唆された.このようなpH変化に伴う溶解および析出といったケイ酸の空間的な再分配は,処分場周辺の岩盤ではより広範囲に生じると予想され,今後は地下環境に想定される種々のケイ酸塩鉱物に対する析出メカニズム解明に取り組み,さらなる処分システムの性能向上を目指す.
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