研究実績の概要 |
アクリル系弱塩基性、スチレン系弱塩基性、スチレン系強塩基性、ベンゾイミダゾール系、及びピリジン系有機複合吸着剤の合成法を確立した。これらの複合吸着剤を用いて模擬放射性核種(Mn, Co, Sr, Y, Ru, Rh, Sb, Te, Cs, Ba, Eu, I, IO3)を含む河川水の除染実験を行った。その結果、スチレン系有機複合吸着剤を用いた場合、全ての核種に対して分配係数が100以上となることがわかった。一方、この河川水に陰イオン交換樹脂とタンニン酸を複合吸着剤と同重量比で添加した除染実験では、単体のみの結果と比較して、分配係数が急激に減少することがわかった。これは陰イオン交換樹脂と僅かに溶存したタンニン酸との間の陰イオン交換反応に起因する。つまり、架橋剤による安定化によってタンニン酸の溶出をうまく抑えることができた。さらに、複合吸着剤の混合比最適化を検討した。結果として、最適比は陰イオン交換樹脂とタンニン酸が2:1であった。また、タンニン酸の混合比の減少に伴い、Mn, Co, Sr, Cs, Baの分配係数が急激に低下することから、これらの元素はタンニン酸と選択的に吸着することがわかった。また、分配係数の緩やかな低下からY, Ru, Rh, Sb, Te, Euに対してはタンニン酸と陰イオン交換樹脂の双方に吸着能を持っていることがわかった。つまり、これら6元素は溶液中に陽イオンと陰イオンが混在した状態で存在する。従って、これを確かめるために温度依存性実験を行った。主とする吸着化学種が一つのMn、Co、Sr、Cs、Ba、Iは1/Tプロットが直線となり、主とする吸着化学種(Y, Ru, Rh, Sb, Te, Eu)が二つの場合、1/Tプロットが山型となることがわかった。スチレン系有機複合吸着剤を用いると検討元素の吸着脱離を温度変化のみで制御できる現象を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度では、タンニン酸型有機複合吸着剤の合成を行った後、12種類の模擬放射性核種(SRs)に対する吸着脱離挙動を評価した。複合吸着剤の組み合わせの選定や混合比最適化も完了した。合成法の改良も継続的に行い、最終的には収率が90%以上を超えた。混合比が異なる複合吸着剤を準備し、SRsの吸着実験を行い、どの吸着点にどのSRsが吸着するのかを明らかにできた。これによって、紫外・可視分光光度計と解析ソフトウェアを併用した河川水中の模擬放射性核種、第一族元素、及び第二族元素と無機陰イオンとの間の配位数や錯形成定数等の算出作業の大部分を短縮できた。困難とされた河川水中のY, Ru, Rh, Sb, Te, Euの構造解析も本年度中に何とか終えることができた。pH = 4 - 8の領域で、複合吸着剤は安定した高い吸着能を維持できることがわかった。また、複合吸着剤は5倍濃縮の河川水中のSRsさえも除染できた。さらに、SRsの吸着挙動に対する温度依存性実験を行ったところ、非常に興味深いことに、Mn、Co、Sr、Cs、Ba、Iのvan't Hoffプロットは直線となり、Y, Ru, Rh, Sb, Te, Euは山型となることがわかった。つまり、前者の吸着機構は1種類、後者は2種類と予想でき、この推測は分光学的解析法から得られた結果と一致した。加えて、スチレン系有機複合吸着剤を用いると検討元素の吸着脱離を温度変化のみで制御できる現象を見出せた。この成果は全く予想しなかったものである。開発したタンニン酸型有機複合吸着剤は温度環境変化を認識し応答する高機能性高分子となりうる可能性がある。つまり、溶離剤を使わずしてSRsとの相互作用を変化させ分離選択性を自由に制御する新しい分離剤が開発できるかもしれない。以上により、当初の計画以上に成果が得られたことから、本年度の達成度としては区分(1)と判断した。
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