研究課題/領域番号 |
16K18346
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
立花 優 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (40634928)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 有機複合吸着剤 / イオン交換樹脂 / ベンゾクラウンエーテル樹脂 / 放射性核種 / 一括除染技術 / オゾン / 疑似的吸着現象 / 電子密度のグラデーション現象 |
研究実績の概要 |
昨年度、スチレン系有機複合吸着剤(PA316TAS)を用いるとオゾン酸化前後に拘らず河川水中の模擬放射性核種(SRs = Mn, Co, Sr, Y, Ru, Rh, Sb, Te, Cs, Ba, Eu, I(IとIO3を含む)のほぼ完全な吸着分離が可能となり、その吸着脱離挙動を温度変化のみで制御できる興味深い現象が確認された。今年度は、このメカニズムを理解するため、PA316TASとSRsとの間の吸着脱離反応に関する温度依存性実験を行った。その結果、例えば、CsとSr等のΔH, ΔSは、オゾン酸化前後においても一定値となったが、RuやTe等に対してはオゾン酸化後の方が、高いΔH, ΔS値を示すことが明らかとなった。これはオゾン酸化によりRuやTeがRuO4-とH2TeO4に変化し、さらに親水性が増したことを意味する。河川水のpH、希釈率、濃縮率、SRsの価数変化に対しても高い吸着能力を保持した。クロマトグラフィー実験を行った結果、Cs, Sr, I(IとIO3を含む)の単位重量当たりの吸着量(mol/g)は、それぞれ2.1×10-4, 8.8×10-5, 及び4.5×10-2であった。特に、Iに対して特異な吸着挙動を示したので、PA316TAS等のDV-Xα分子軌道計算を行った。その結果、陰イオン交換樹脂(PA316)、硫酸処理させたPA316、PA316TASの順でIO3-の分配係数とLUMOが直線関係となり、化学的な複合によりLUMOの低下が確認された。河川水中では十分に高い吸着能力を持つPA316TASであるが、幸いにも、海水中でもその吸着能力を維持できた。比較のため、スルホン基を持つスチレン・ジビニルベンゼン共重合体やベンゾクラウンエーテル樹脂等を合成し、海水、陸水中のSRsの吸着挙動を調べ、PA316TASの方がより優れた吸着能力を持つことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スチレン系有機複合吸着剤(PA316TAS)を用いて、様々な河川水や海水中の模擬放射性核種(SRs = Mn, Co, Sr, Y, Ru, Rh, Sb, Te, Cs, Ba, Eu, I(IとIO3を含む))の吸着脱離挙動を調べ、検討した全ての条件下において、十分な吸着能力を持つことが確認できた。また、水溶液中へのPA316TASの溶出も見受けられなかった。加えて、河川水のみならず海水中におけるPA316TASとSRsとの間の吸着脱離機構の多くも明らかとなった。前年度のSRsの吸着脱離平衡反応に対する温度依存性実験では、Mn、Co、Sr、Cs、Baのvan't Hoffプロットは直線となり、Y, Ru, Rh, Sb, Te, Eu, I(IもしくはIO3を含む場合)は山型となったが、本年度に実施した海水系の場合は、van't Hoffプロットが全て直線となった。より詳細な分光学的研究から河川水と海水成分でのSRsの化学構造の違いによるものと判断した。オゾン有無による大きな違いは、オゾン酸化により河川水中のMn, Co, Y, Euが沈殿したことである。海水中のSRsの溶解挙動に関しては現在調査中である。開発したPA316TASは海水中のU、Am等にも非常に高い吸着能力を持つことが確認された。同位体分離研究にもよく使われ、高い元素選択性能を有するスルホン基で修飾されたスチレン・ジビニルベンゼン共重合体やベンゾクラウンエーテル樹脂等の合成にも成功し、比較検討の結果、PA316TASの方がより高い吸着性能を持つことがわかった。天然有機化合物であるタンニン酸と商業化済みの陰イオン交換樹脂を化学的に架橋することで、膜ではないが膜のように多種多様な元素を同時に選択的に除去できる全く新しい粒子型吸着剤の開発に成功した。以上により、本年度の達成度として区分(2)と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、平成30年度中盤まで、多くの部分が明らかとなってきたが、スチレン系有機複合吸着剤(PA316TAS)の擬似的吸着現象と電子密度のグラデーション現象の効果に関する研究を行う。その後、平成30年度終盤にかけてPA316TASを用いた模擬放射性核種(SRs = Mn, Co, Sr, Y, Ru, Rh, Sb, Te, Cs, Ba, Eu, I(IとIO3を含む)(但し、Co, Sr, Ru, Cs, Euは放射性核種を用いた)の吸着脱離試験及び耐久性試験を繰り返し行う。現在のところ、PA316TASの基本骨格は化学的に安定なベンゼン環で構成されているので耐放射線性や耐熱性も比較的高いと考えている。また、放射性核種の吸着状態によっては局部的な発熱が起こりうるかもしれないが、既存の陰イオン交換樹脂と比較してPA316TASは遥かに高い安定性を持つと期待している。クロマトグラフィー法によるCs、Sr、I、マイナーアクノイド(MA = Np, Am, Cm), Ln等の吸着脱離実験を繰り返し行い、PA316TASの耐放射線特性を評価する。耐熱性特性は初年度に実施した熱力学的パラメーターの取得の際に得られた知見により評価する一方、耐薬品性試験は有機酸やアルコールを添加した放射性核種を含む河川水及び海水を移動相としたクロマトグラフィー法により行う。さらに、管状炉を用いたPA316TASの焼却試験も行う。また、予算が許せば、実験室レベルの処理プラントも作製する予定である。最後に、国内外の研究動向を把握した上で、シビアアクシデント対応型高度浄水システムのシナリオを提案したいと考えている。最終年度では、この新しいシナリオを国内外の学術会議や地域産業セミナー等を通して世界中へ情報発信すること、次に、今年度までに得られた成果を学術論文として纏め上げることが目標である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予想以上に多くの成果が得られ、当初の2カ月以上早く研究計画が進行したことから、急遽、2018年4月8-13開催の国際会議(The 11th International Conference on Methods and Applications of Radioanalytical Chemistry (MARC XI)に参加することに決めた。その予算を確保するため、次年度使用が生じた。変更後の使用計画通り、前述の国際会議に参加し、確保した全ての予算を使用した。これにより、国際会議参加による情報収集だけでなく、論文投稿も実施できたことから、使用計画の柔軟な対応であったと考えている。
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