研究実績の概要 |
スチレン系有機複合吸着剤(PA316TAS)と12種類の模擬放射性核種(SRs = Mn, Co, Sr, Y, Ru, Rh, Sb, Te, Cs, Ba, Eu, I(IとIO3を含む))との間の疑似的吸着能と電子密度のグラデーション効果に関する研究を最終年度まで取り組んだ。河川水と海水中におけるSRsの化学構造が明らかとなり、PA316TASに対するSRsの吸着構造もうまく推測することができた。疑似的吸着能とは、水溶液中において中性の電荷を持つTeもしくはSbとPA316TASとの間で観測できる特異的な吸着現象である。具体的には、金属原子と酸素原子との間の電荷が局在化した単結合とPA316TASとの間の静電的相互作用を経由する吸着機構のことである。一方、電子密度のグラデーション効果とは、パラホルムアルデヒド(PFA)を用いて加水分解したタンニン酸(TAS)と陰イオン交換樹脂(PA316)を架橋することにより発現する吸着機構である。つまり、ある程度規則正しく架橋したタンニン酸の電荷は非局在化しているが、そこへPA316が短い距離で複合されると、PFA架橋前後における各化学結合の電荷バランスが局所的に変化する。電荷分布の変化量は僅かと考えられるが、様々な値を取り得る。それゆえに、PA316TASは多種多様なSRsと選択的に吸着できると結論付けた。加えて、PA316TASは吸着したSRsを長期間保持した後、塩酸水溶液によるSRsの溶離回収も可能である。放射性CsとSrを用いた吸着分離実験でも同様の現象を確認できた。さらには、焼却処理によるPA316TASの減容化も可能であった。以上のことから、シビアアクシデント対応型高度浄水システム構築に向けた新しい複合吸着剤の開発に成功した。今後は得られた成果に関する論文発表等や新しい浄水システムのシナリオの情報発信を行う予定である。
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