研究課題/領域番号 |
16K18348
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小林 大志 京都大学, 工学研究科, 助教 (80630269)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | トリウム / 水酸化物固相 / 溶解度 / 結晶子サイズ / 粒子サイズ効果 |
研究実績の概要 |
還元的な地層処分環境では、ウランやプルトニウムなどのアクチノイド核種は4価イオンとして振る舞い、地下水中での移行挙動は水酸化物または酸化物固相の溶解度により支配される。4価アクチノイドの移行挙動評価では、水酸化物および酸化物固相の見かけの溶解度を定量的に把握する必要があるが、従来の固相分析では主にバルク固相の同定が行われてきた。溶解度のより正確な評価には、バルク固相のみならず、固相粒子のサイズや形状、固液界面の状態を解明することが重要と考えられる。 本年度は4価アクチノイドであるトリウムの水酸化物固相に着目した。トリウムの実験では、アモルファス状の水酸化物(Th(OH)4(am))を初期固相として含む試料溶液を25、40および60℃で熟成し、固相の結晶子サイズおよび溶解度の測定を行った。25℃で熟成した場合、固相のXRDスペクトルから結晶子サイズは3nm程度と考えられた。一方、40℃および60℃で熟成した場合、結晶性酸化物(ThO2(cr))に相当する位置にブロードなピークを持つXRDスペクトルが得られ、ピークの半値幅から固相の結晶子サイズはおよそ7nmと見積もられた。また、見かけの溶解度測定から、25、40および60℃で熟成した固相の溶解度積(Ksp)を求めたところ、40および60℃で熟成した固相のKspは25℃のそれに対して1桁程度低い値を示した。これらlog Kspの値は、固相の結晶子サイズの半径dに概ね反比例しており、溶解度積の違いは単位モルあたりの表面自由エネルギーの違いに起因するとするSchindler式に関連づけられることが分かった。次年度は、固液界面状態の把握のため、4価アクチノイドのアナログ元素であるジルコニウムの水酸化物固相の小角散乱法による測定を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に平成28年度の計画として記載した事項については概ね実験結果が得られ、達成された。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、4価アクチノイドのアナログ元素であるジルコニウムを用いて、小角散乱法により水酸化物および酸化物固相の表面状態について検討を行う。計画では日本原子力研究開発機構のJRR-3の中性子ビームラインを用いる予定であるが、JRR-3の再稼動が遅れているため、放射光施設を利用したX線小角散乱法(SAXS)による測定および解析を進める。SAXSの広角側の散乱領域(Porod領域)では、散乱体の表面形状に関する情報が得られる。熟成温度を変えた試料のSAXSプロファイルの解析から、固相の表面状態の変化と粒子サイズ、溶解度の関係について考察を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度にトリウム水酸化物固相の溶解度と固相粒子サイズの関係について考察を進め、学会発表を行う予定であったが、追加の実験データが必要と考えられた。発表予定を変更したため、未使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
外部発表を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てる。
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