研究課題/領域番号 |
16K18348
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小林 大志 京都大学, 工学研究科, 准教授 (80630269)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ジルコニウム / 水酸化物 / 酸化物 / 溶解度 / X線小角散乱 / ゼータ電位 / 粒子サイズ効果 |
研究実績の概要 |
前年度までの研究では、X線小角散乱(SAXS)、X線広角散乱(WAXS)およびX線吸収微細構造(XAFS)を用いてジルコニウム水酸化物構造の階層構造を明らかにし、多核錯体から成る数nm程度の大きさを持つ1次粒子がジルコニウム水酸化物の溶解度を支配している可能性を示した。そこで、今年度は、塩化ナトリウム(NaCl)を用いて、イオン強度をI = 0.01, 0.1, 1.0としたジルコニウム水酸化物の懸濁試料溶液を新たに調製し、そのSAXS測定を行った。水酸化物固相を構成する1次粒子の大きさが、イオン強度の増加とともに小さくなる傾向を見出し、イオン間の相互作用が1次粒子の構成に寄与していると考えた。また、ジルコニウム水酸化物固相表面の電荷状態を明らかにするため、ゼータ電位測定を行い、pH、イオン強度および電解質の違いによるゼータ電位の変化傾向を調べた。ゼータ電位の絶対値は、イオン強度の増加とともに低下し、SAXS測定における1次粒子のサイズ変化と関連付けられると考えられた。 一方、アモルファス状のジルコニウム水酸化物に加えて、結晶性ジルコニウム酸化物をpHおよびイオン強度を調整した試料溶液に添加、懸濁させ、SAXS測定およびゼータ電位測定を行った。結晶性酸化物の場合、1次粒子として観察される単結晶粒子の大きさは、pHやイオン強度により変化せず、固液界面状態の違いもSAXSのプロファイルには明確には表れなかった。一方、ゼータ電位は、イオン強度の増加とともに低下し、その値のpH依存性およびイオン強度依存性は、固相表面におけるプロトン解離反応と電気二重層を考慮することで概ね再現できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に平成30年度の計画として記載した事項については概ね実験結果が得られ、達成された。また、前年度までに実施したジルコニウム水酸化物の階層構造に基づく溶解度の解釈については、本年度に透過型電子顕微鏡(TEM)による追加の固相状態観察を行い、学術誌に投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、最終年度に相当するため、前年度までに得られた各種分析法による結果を整理し、4価アクチノイドの水酸化物および酸化物固相の固液界面状態および固相粒子サイズと見かけの溶解度の関係をモデル化する。さらに、これまで得られた25℃~90℃までの溶解度や固相状態の温度依存性から、熱力学的な解釈を加えた見かけの溶解度モデルを提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度の実験ではジルコニウム酸化物の粒子サイズおよび表面状態を調べるため、放射光施設および学内の共同利用装置を用いたX線小角散乱(SAXS)実験を行った。放射光施設での実験結果により、学内装置利用による試料分析の数が変わり、当初予定していた利用料との差額が未使用額として発生した。
次年度に実験条件を変えたジルコニウム酸化物のSAXSデータを追加取得することを計画しており、未使用額はその経費に充てる。
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