研究実績の概要 |
低線量放射線被ばくは脳卒中のリスクを高めることが報告されている。本課題では,福島第一原子力発電所の事故による放射線の健康不安の解決の一助とすることを目的とし,それら疾患に寄与すると考えられる酸化ストレスに着目し,低線量被ばく後の脳の酸化ストレスの程度および酸化ストレスの受けやすさ(疾患のなりやすさ),また,その簡便な予防法について検討した。 平成28年度では0.1,0.5,1.0,2.0 GyのX線照射4時間,1日,2日,7日後の脳中の抗酸化機能関連物質を分析した結果,低線量X線照射は抗酸化機能を亢進させることがわかった。平成29年度では,低線量X線照射とアスコルビン酸(AA)投与後の脳中の抗酸化機能関連物質を分析した結果,一部の抗酸化酵素・物質ではアスコルビン酸投与と低線量X線照射による抗酸化機能の亢進の併用効果みられなかったが,酸化ストレスの指標である過酸化脂質量の分析をする必要のあることがわかった。 平成30年度では,脳への酸化ストレスを与えるため,1-Methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine (MPTP)を投与し,事前の低線量X線照射やAA投与による抑制効果について検討した。マウスを対照,0.5GyのX線照射,AA投与,0.5GyX線照射後にAA 投与,MPTP(30mg/kg体重)投与,0.5GyのX線照射後にMPTP投与, AA 投与後にMPTP投与, 0.5GyのX線照射,AA 投与後にMPTP投与の8群に分けた。X線照射2時間後にAA及びMPTPを投与し,その4時間後に各々安楽死させ,脳中の各指標を定法に従い分析した。その結果,0.5 Gy照射とAA投与の併用により,脳中の過酸化脂質量が有意に減少したことから,この併用は酸化ストレス緩和に有効であると示唆できた。
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