研究課題/領域番号 |
16K18350
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
木村 敦 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主幹研究員(定常) (60465979)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イオン液体 / 天然多糖類 / 放射線 / ゲル |
研究実績の概要 |
天然多糖類は、地球上で大量に生産される有用な資源循環型材料でありながら、水や有機溶媒に難溶であり反応性に乏しいため、成型加工を行うためには架橋剤添加および誘導化等の前処理を必要とした。放射線加工法は、生成するラジカルを起点とした橋かけ反応により、架橋剤等の化学薬品を必要とすることなく高分子の改質が可能となる優れた手法であるが、反応性の低い一部の天然多糖類の改質は困難であった。我々は、イオン液体の活用により天然多糖類の高濃度溶液を調製し、放射線を照射することで天然多糖類の一種であるセルロースゲルの開発に初めて成功した。さらに、イオン液体中のセルロースの架橋反応メカニズムを明らかにし、その知見を応用することで、甲殻類由来のキチンゲルの作製にも成功した。しかし、個々の天然多糖類ゲルは力学特性および電気伝導性に恵まれず、生体電極材料や細胞足場材料等への応用展開に結び付きにくい材料であった。本研究では、各種天然多糖類をイオン液体に溶解し、適切な割合で混合して高濃度溶液を調製し、天然高分子ナノファイバーを添加して放射線を照射することで、優れた力学特性、電気伝導性および生体適合性を有する天然多糖類複合ゲル材料の開発を目指す。 今年度は、各種天然多糖類ナノファイバー(セルロース、キチン、キトサン等)およびイオン液体の合成に必要な原料および器具を購入し、試料調整方法の検討および各種分析機器の整備・校正を行った。各種天然多糖類を溶解するのに最適なイオン液体酢酸1-エチル-3-メチルイミダゾリウムの合成・精製を行った。さらに、各種天然多糖類をイオン液体に溶解して高濃度溶液を作製し、γ線・電子線を照射することで高収率の天然多糖類ゲルを作製を試みた。その結果、セルロースおよびキトサンの混合溶液をガンマ線照射することで、高収率の新規多糖類複合ゲルの作製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書類に記載した平成28年度の研究計画(実験試料の合成・精製・購入、分析機器の整備・校正、放射線照射条件の選定)はすべて達成した。さらに、平成29年度に行う予定であった高収率の天然多糖類複合ゲルの作製にいち早く成功したことから、おおむね順調に研究が進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の実験結果の基づき、グローブボックス内で温度、溶存酸素濃度、および溶存水分濃度を調節した2種類の天然多糖類・イオン液体溶液を混合し、天然多糖類ナノファイバーを添加して、温調可能な照射容器に封入する。さらに、γ線・電子線照射して天然多糖類複合ゲルを作製する。各種分析法(GPC、LC-MS、FT-IR、圧縮試験、引張試験、動的粘弾性測定法、サイクリックボルタンメトリ、交流インピーダンス法等)により、生成したゲルの収率、膨潤度、分子量、動的粘弾性、電気伝導度、力学特性、および生体適合性(生分解性、細胞接着性)等を評価し、天然高分子の架橋反応を促進する因子を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は参加した学術会議が所属機関で開催されたため旅費を大幅に節約できたこと、および国際会議への参加を検討していたが、諸事情により参加できなかったことが理由として挙げられる。
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次年度使用額の使用計画 |
当該研究成果の外部発信に努めるため、国内外の学術会議への参加費に使用する予定である。また、研究が予定より進捗しているため、平成30年度に計画している生分解性・細胞接着性試験を前倒しで行うための研究費用に使用する予定である。
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