研究実績の概要 |
fブロック元素であるランタノイド(Ln)とアクチノイド(An)の高度認識・分離により使用済み核燃料再処理で発生する高レベル廃液の放射毒性低減が可能であり,ガラス固化体発生量の低減や最終処分場に必要な敷地の大幅な縮小が期待される.An(III)/Ln(III)分離において, とりわけ三価アメリシウムAm(III)と三価ユウロピウムEu(III)の分離が重要である.このような分離系で用いるN,Oハイブリッドドナー配位子(例えばN-アルキル-N-フェニル-1,10-フェナントロリン-2-カルボキシルアミド, PTA.f元素と配位するN, Oを有す)等の合成, Ln(III)との単結晶X線構造解析を進めた.単結晶中の錯体構造から構造に関するパラメータを取得し, 一連のランタノイド元素, 即ち軽希土類から重希土類へとLn(III)のイオン半径が収縮するにつれて結合長や結合角, 二面角といったどのように変化するかを詳細に調べた.併せて各配位子とLn(III)の酸乖離定数や錯形成定数を求め, 錯体構造と配位強さの相関を取得した.放射光EXAFSでも一連のLn(III)について動径構造関数を取得し,元素間距離や配位数といった錯体構造の情報を取得しその相関を考察した.溶液中では熱振動や揺らぎが大きいため元素間距離は大きくなったが, 単結晶と同様にPTAではアミドのOが強くLn(III)と相互作用し, 配位するN,Oの幾何配置と嵩高い官能基の影響等が相まって特定Ln(III)との錯形成定数が極大値を持った.抽出試験についてはPm(III)以外の14種のLn(III)で一括して抽出実験を行い, 硝酸イオン濃度依存性や配位子濃度依存性を調べた.アイダホ国立研究所で非密封の放射性物質を扱うRad Worker 2の許可を取得し, 放射性物質を用いた分離科学実験にも従事した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
配位子の合成と単結晶構造, 錯形成定数の取得とその相関について考察した.必要な配位子の合成スキームは概ね整備できた.単結晶はうまく合成できたものとできないものがあるが, 条件を変えて一連のランタノイド硝酸塩水和物と配位子をメタノールなどの溶媒に溶かして静置し順次形成をまち解析を行う.概ね順調に研究は進んでおり, 1年目に合成した化合物を用いて計画的に実験を行う.非放射性のランタノイドを用いて一連の実験を行ってきたが, アクチノイド(3価, アメリシウム以外にも)を用いた実験はまだほとんど未実施である.日本では実施が難しい放射性物質を用いた実験をアイダホ国立研究所にて行う必要がある.アイダホ国立研究所では放射性物質を用いた実験の他, 非放射性のランタノイドにおいても熱力学的パラメータを取得し配位子の性能評価, 配位子設計指針の取得を目指す.
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今後の研究の推進方策 |
一年目は配位子の有機合成から開始し, 単結晶X線構造解析, 放射光EXAFSを駆使して構造的な観点から研究を進めた.アクチノイドと性質の類似したランタノイドを用いて抽出実験を行った.二年目はランタノイドを用いた抽出実験で合成した配位子の性能を調査したり, 添加試薬の効果を検討する.これに加えて日本学術振興会海外特別研究員制度で赴任したアイダホ国立研究所において, 実際のアクチノイドを用いた分離科学研究を実施する.研究所属・拠点が日本国内から米国に変更され1年目のように自由に配位子の有機合成や単結晶X線構造解析ができない可能性がある.アメリシウムやキュリウムを用いたトレーサーでの抽出実験のほか, ミリモルオーダーのアメリシウムを用いたUV-vis計測やCo-60線源を用いた高い放射線場での溶媒抽出実験等が実施可能である.米国において放射性物質をフードで用いた実験を行うために必要なトレーニングと許可は昨年度に取得済みである.新規に取得した単結晶中の錯体構造や抽出・分離データなどは随時論文等で公開する.
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