本研究の目的は「有機-無機ハイブリッドタンデム太陽電池のためのグラフェン電極の開発」である。ペロブスカイト材料をトップセルとしたタンデム太陽電池は低コストかつ高効率な次世代太陽電池として非常に着目されている。そこで本研究では、広い波長範囲で高い光透過率を有し、良好な電気的接合が期待できるグラフェン電極を有機-無機ハイブリッドタンデム太陽電池の接合層として適用することを提案し、低コスト・高効率・長期安定な太陽電池のための基盤技術を確立することを目指した。 まずはペロブスカイト膜を再現性良く作製するために、貧溶媒含浸法を開発した。この製膜法により再現性・膜質の向上と共に低温での製膜が可能になった。次にグラフェン層を挿入したペロブスカイト太陽電池の開発に取り組んだ。有機・無機ハイブリッドペロブスカイト材料は水に対する耐性が極端に低いため、従来のウェットなグラフェン転写法ではペロブスカイト層上にグラフェンを積層化することが困難であった。そこで本研究では、シリコン基板の接着などに使用する真空張り合わせ装置を用いて、新しいドライなグラフェン転写法を確立した。グラフェンを用いた正孔輸送層フリーペロブスカイト太陽電池は典型的なspiro-OMeTADを用いた太陽電池より短絡電流は高いが、開放電圧と曲線因子がやや低くなった。今後グラフェンの品質や転写条件のさらなる最適化により太陽電池特性の向上が見込めるものと考えている。最後にグラフェンを有する太陽電池の安定性について評価した。安定性の評価としては初期的な試験結果ではあるが,spiro-OMeTAD と比較してグ ラフェンを有する太陽電池が安定性に優れていることが示された。グラフェンが大気中の水や酸素の浸入を防ぎ,ペロブスカイト結晶が分解され太陽電池特性が劣化するのを抑制したために安定性が向上したと考えられる。
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