研究課題
睡眠・覚醒を担う神経回路網は脳の広範に及びその構成要素であるニューロン群は散在かつ不規則に局在している。また、既知の睡眠・覚醒制御ニューロンの生理学的特性と投射パターンだけでは睡眠・覚醒の制御を説明することは難しい。いまだ不明瞭な点の多いこの睡眠・覚醒制御回路網の実態を明らかにするため、本研究では部位及びセルタイプ特異的なニューロン活動操作技術により新規の睡眠・覚醒制御ニューロン探索を試みている。現在までに延髄の一部に新規睡眠・覚醒制御ニューロンが存在することを見出している。このニューロンの活動を抑制するとマウスの覚醒状態の断片化が生じることから、覚醒中にノンレム睡眠への移行を抑制する機能を有していることが示唆される。また、ウイルスベクターによりこのニューロンの軸索を蛍光標識し、このニューロンの投射パターンを解析したところ、全く知られていなかった投射経路が明らかになった。既知の睡眠・覚醒を担う神経核への投射も見られ、この延髄のニューロンが睡眠・覚醒制御回路網における新たな構成要素であることを示唆する。現在はここまでの結果をまとめ、論文投稿の準備中である。さらに、このニューロンの生理学的性質を明らかにするための実験系を構築中である。
2: おおむね順調に進展している
新規の睡眠・覚醒ニューロンの存在は予備実験の段階である程度予測できていたが、データ数を増やし精密な解析を進めたことで、その正確な部位とセルタイプを比較的短期間で同定することができた。また、驚くべきことにその部位は睡眠科学においては未探索な部位であり、今後の大きな発展が期待できる。また、その投射パターンは睡眠・覚醒制御システムと全く別のシステムの相互作用を示唆するものであり、睡眠の意義に関する理解も進むことが期待できる。
睡眠・覚醒を制御する新たなニューロンではあるが、その存在する部位が睡眠においては未探索の脳領域であり、睡眠に関連した情報があまりに少なく、このニューロンの正確な挙動と機能的意義がまだ不明確である。さらに理解を深めるため、今後、このニューロンの入出力関係と生理学的な特性の研究を進める。逆行性トレーサーを使って、このニューロンへどのようなニューロンが投射しているかを全脳でマッピングする。また、このニューロンの活動パターンを知るため、睡眠・覚醒中のこのニューロンの活動をin vivoで記録し、睡眠・覚醒状態との相関やこのニューロンの集団の同質性の高さなどを解析する。
平成28年度の実験は既存の機器で実施可能であり、次年度移行に必要な機器がその結果次第で変更になる可能性があったため、予算の使用を控えた。
平成29年度は解剖学的解析と生理学的解析を進める予定であり、それに必要な機器を順次購入予定である。また、国際学会への参加を予定している。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
Brain Struct. Funct.
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1007/s00429-017-1365-7
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