睡眠は動物界において普遍的かつ必須の生理現象である。しかし、その制御がどのように行われているかは不明な点が多い。哺乳動物においては睡眠の制御が脳で行われていることに疑問の余地はない。睡眠は全脳・全身の生理現象であり、覚醒から睡眠への遷移は数分~数十分かかる比較的遅い現象である。そのため、睡眠状態をつくり出すのはノルアドレナリン、セロトニン、アデノシン、その他ペプチドなどの拡散性因子が主因であると考えられてきた。しかし、近年では皮質下構造に散在するグルタミン酸作動性、GABA作動性、グリシン作動性ニューロンのようないわゆる速い伝達を担うニューロン群とそれらの神経回路網の寄与が無視できなくなってきている。技術的発展もあり、睡眠・覚醒制御ニューロン群はいくつも同定されているが、それらの既知の構成要素の組み合わせでは睡眠・覚醒パターンの形成はまだ十分に説明できない。本研究では部位及びセルタイプ特異的なニューロン活動操作技術により、古典的な切断・破壊実験で見過ごされてきた脳部位を標的とし、新規の睡眠・覚醒制御ニューロンの無作為探索を試みた。標的としたセルタイプはグルタミン酸作動性、GABA作動性、グリシン作動性などである。上記の現在までに延髄の一部に覚醒~ノンレム睡眠~レム睡眠の遷移を制御する未知のニューロンが存在することを見出している。このニューロン群の生理学的及び解剖学的特性と睡眠・覚醒状態との相関関係及び因果関係をあらゆる階層から多面的に解析した。
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