研究課題/領域番号 |
16K18363
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤島 和人 京都大学, 高等研究院, 特定助教 (20525852)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 樹状突起形成 / 樹状突起フィロポディア |
研究実績の概要 |
(1)フィロポディア長さ制御と樹状突起の空間充填パターンの解析 Mtss1 によるformin 分子DAAM1の活性制御をより詳細に調べるために、以下の実験を行った。XTC 細胞に蛍光タンパク質でラベルしたDAAM1 を低濃度になるように発現させ、スペックル観察を行った。Mtss1 存在時では、DAAM1 によるアクチン重合が頻繁に中断する傾向にありDAAM1の活性が負に制御されることが示された。 これまでの研究でMtss1欠損プルキンエ細胞では、フィロポディアの過伸長が生じること、また樹状突起全体としては、細胞体近位の突起密度が疎になる傾向にあることを見出していた。その樹状突起では、突起同士の衝突により退縮(または成長停止)が起こる。フィロポディアの過伸長が樹状突起同士の衝突確率を引き上げて、退縮が高頻度で起こる可能性が考えられた。この仮説を検証するために、プルキンエ細胞の樹状突起成長を再現するシミュレーションを行った。速度や分岐頻度など基本的なパラメータは、実測値を用い、突起の衝突で退縮が起こる。このシミュレーションにおいてフィロポディア長を引き上げると、Mtss1ノックアウト細胞が示すように、特に細胞体近位側で突起が減少する傾向にあり仮説を支持する結果となった。 (2)フィロポディアによる樹状突起の方向性制御の解析 樹状突起フィロポディアによる軸索の認識が樹状突起の伸長方向を決定する可能性がある。プルキンエ細胞樹状突起がいかにして顆粒細胞軸索である平行線維を認識するか調べるため、昨年度より続けている接着分子の同定を試みた。前年度までに候補分子として同定した分子は、軸索の認識には関与しているものの、その分子の機能阻害は樹状突起の方向性を乱すに至らなかった。本年度は、近縁の分子のノックダウンを試みたが、候補分子の特定には至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)フィロポディア長さ制御と樹状突起の空間充填パターンの解析 これまでにMtss1がformin分子であるDAAM1と相互作用することを示していた。さらに、DAAM1のアクチン重合活性が、Mtss1により制御されることが新たに判明した。DAAM1の活性はMtss1により負に制御される可能性が高くなった。これまでにプルキンエ細胞にDAAAM1の恒常的活性化体を導入すると、Mtss1の機能阻害と同様フィロポディア長の亢進が引き起こされることを観察していた。したがって今回得られた結果は、これまでの知見と一致する。さらにシミュレーションを用いて、フィロポディアの過伸長が、樹状突起形成パターンに影響することを確認した。以前よりプルキンエ細胞樹状突起は分岐同士の接触により退縮ないし成長停止がもたらせることを見出していた。フィロポディア伸長により突起同士の接触確率が上昇することが、接触依存的退縮をより頻繁に引き起こすことが形態変化をもたらすという仮説を支持する結果となり、順調に進んでいる。 (2)フィロポディアによる樹状突起の方向性制御の解析 樹状突起フィロポディアが軸索を認識することが軸索に対して直交した方向に樹状突起を形成するという仮説の検証のため、樹状突起がいかにして軸索を認識するかその分子の同定を試みている。昨年度までに候補分子を得ることができたが、その分子の機能阻害だけでは不十分であることが判明していた。そのことから近縁分子に着目して阻害を試みているが、特定に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
(1)フィロポディア長さ制御と樹状突起の空間充填パターンの解析 Mtss1 によるDAAM1の制御機構の解明を続ける。これまでに神経細胞またはXTC細胞を用いて細胞内におけるMtss1 とDAAM1の相互作用を解析してきた。DAAM1がMtss1 から直接活性制御を受けるかどうかを確認するために、セルフリー状況下でDAAM1のアクチン重合活性がMtss1の存在により影響を受けるかどうかを確認する。 (2)フィロポディアによる樹状突起の方向性制御の解析 樹状突起-軸索の接触を認識する分子の同定は重要と考えているため、引き続きフィロポディアによる軸索認識機構の探索・解析を行う。現在関連が確認されている候補分子の近縁分子をターゲットとした機能阻害を続ける一方で、データベースなどを用いてプルキンエ細胞に発現する接着因子にも視野を広げる予定である。また、これまで関与が示唆されている分子について、樹状突起成長時におけるフィロポディアにおける動態を観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はMtss1によるフィロポディア形成に主に力点を置き研究を行った。また次年度に予定していたシミュレーションによる解析を今年度に取り入れた。一方でフィロポディアによる軸索認識の分子メカニズムの探索・解析を次年度に重点的に行うことにした。そのために今年度使用を予定していた研究費に一部を来年度に繰り越した。
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