研究課題/領域番号 |
16K18365
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
篠原 亮太 神戸大学, 医学研究科, 助教 (30769667)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 神経科学 / 脳科学 / ストレス / うつ病 / 前頭前皮質 / ドパミン |
研究実績の概要 |
前頭前皮質は社会や環境の影響を大きく受け、ストレスへの感受性も高い。前頭前皮質の神経回路成熟は思春期を経て完了するため、思春期の経験や生育環境が大きく影響するが、その実態は不明な点が多い。我々は成体マウスの社会挫折ストレスを用い、単回ストレスは内側前頭前皮質(mPFC)のドパミン受容体サブタイプを介してmPFC神経細胞の樹状突起やスパインを造成してストレス抵抗性を増強すること、反復ストレスはmPFCドパミン系の機能低下を誘導し情動変化を促すことを見出した。本研究では、ドパミン受容体サブタイプによるmPFC神経細胞の機能形態変化の分子機序を明らかにすると共に、思春期でのmPFCの神経回路成熟におけるドパミン系の役割を調べ、神経発達異常やストレスに起因する精神疾患の病態解明に迫る。 本年度は、単回ストレスによりmPFCの神経細胞でドパミン受容体サブタイプ依存的に活性化する細胞内シグナル伝達を同定した。さらに神経細胞種特異的マーカーとの共染色により、単回ストレスにより当該ドパミン受容体サブタイプが活性化されるmPFCの神経細胞種を同定した。このmPFCの神経細胞種選択的に当該ドパミン受容体サブタイプの発現を抑制し、ストレス抵抗性が減弱することを示した。一方、当該ドパミン受容体サブタイプの発現を抑制しても、反復ストレスによるmPFC神経細胞の樹状突起萎縮は変化しないことを見出し、単回ストレスによるmPFC神経細胞の形態制御に選択的に当該ドパミン受容体サブタイプが作用することを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の当該年度の研究計画では、ドパミン受容体サブタイプによるmPFC神経細胞の機能形態変化の分子機序について解析することを目的としていた。「研究実績の概要」の通り、単回ストレスにより当該ドパミン受容体サブタイプにより活性化されるmPFC神経細胞のシグナル伝達を同定し、神経細胞種特異的マーカーとの共染色により、単回ストレスにより当該ドパミン受容体サブタイプが活性化されるmPFCの神経細胞種を同定した。さらにこのmPFCの神経細胞種に発現する当該ドパミン受容体サブタイプがストレス抵抗性の増強に関与することを見出した。また当初の研究計画では、思春期の神経回路成熟におけるドパミン受容体サブタイプの関与も検討する予定であった。この目的のために、ドパミン受容体サブタイプのfloxマウスを、神経細胞種選択的にCreERT2を発現するマウスと掛け合わせることで、思春期でドパミン受容体サブタイプを欠損するマウスを作出した。近年ドパミン受容体サブタイプ間のヘテロダイマー形成の重要性が示唆されていることから、その他のドパミン受容体サブタイプについてもmPFCで欠損するマウスを作出した。以上の理由から、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(今後の推進方策) 本研究で作出した各ドパミン受容体サブタイプのコンディショナル欠損マウスを用い、思春期のmPFCでドパミン受容体サブタイプを欠損させた際の、思春期および成体での情動行動やストレス抵抗性に与える影響を調べる。並行して、独自に開発した神経細胞の低密度標識法を用い、mPFCのドパミン受容体サブタイプを思春期で欠損させた際のmPFC神経細胞の樹状突起形態に与える影響を調べる。mPFCのドパミン受容体サブタイプの欠損によりストレスによる情動行動と相関して神経活動が変化する脳領域を即時応答遺伝子であるc-Fosの発現を指標に解析し、化学遺伝学的手法により情動変化との因果関係に迫る。本研究に先立ち行った解析から、単回ストレスにより軸索ガイダンス分子、細胞接着分子、細胞骨格関連分子などの発現がドパミン受容体サブタイプ依存的に変化することを見出している。各遺伝子に対する人工miRNAや全長cDNAを初代培養神経細胞に導入し、樹状突起やスパイン形態に与える影響を調べる。初代培養神経細胞で効果が確認できた遺伝子について、当該遺伝子のmPFCでの発現抑制や過剰発現を行い、mPFC神経細胞の樹状突起形態に与える影響を調べる。社会挫折ストレスにも供し、ストレスによるmPFC神経細胞の形態変化やストレス抵抗性への関与も調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウスの行動実験器具の購入を予定していたが、年度内に納期が間に合わず、次年度に購入することとした。そのため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額と翌年度分を合わせた使用計画は以下の通りである。 主たる直接経費として、実験用試薬一式、実験用器具一式を物品費として計上し、マウス飼育費、共同研究施設利用費、成果発表のための国内旅費2回、論文投稿費を計上した。
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