鳥類刻印付け(刷り込み)は孵化後間もないヒナが親を追随して覚える学習である。刻印付けの初期記憶の形成には大脳連合野に相当するIMM領域での甲状腺ホルモン(T3)の働きが必須である。また、刻印付け記憶はT3の働きによりIMM領域で形成された後、他の領域に移って長期記憶として固定化(consolidation)される。我々はその領域としてIMHA領域に着目して研究を行ってきた。これまでに、このIMHA領域はIMMからの投射があり、刻印付けの24時間後に破壊すると想起できないことを明らかにした。本研究の目的は、(1)このIMM―IMHA経路が刻印付け記憶の固定化に必要であるか、また(2)IMM―IMHA経路を繋ぐ分子を明らかにすることである。(1)において、ウイルスベクターの二重感染による経路選択的伝達遮断を用いた。刻印付け記憶を獲得したことをテストで確認した群であっても、IMHA―IMHA経路を記憶獲得の24時間後に遮断すると、嗜好スコアが低くなった。これは、刻印付け記憶の固定化に、IMHA―IMHA経路が必要であることを示唆している。(2)においては、cDNAマイクロアレイ解析により、T3の静脈注射により大脳で発現が上昇する遺伝子を網羅的に解析した。その結果、複数の遺伝子が見出され、その中でWnt-2bに着目した。In situ hybridizationの結果、Wnt-2b mRNAはIMHA領域で発現上昇が見られた。また、薬理学的なIMHA領域でのWntシグナル伝達の阻害により、刻印付けが阻害された。これらのことから、(1)IMHA―IMHA経路は記憶の固定化に必用であり、(2)IMHA―IMHA経路を通して、IMHA領域でWntシグナルが重要な働きをしていると考えられる。(2)の成果は、Hormones and behaviorに掲載される。
|