研究課題/領域番号 |
16K18374
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
大島 知子 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター), 分子細胞生物学研究部, 研究員 (50731783)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 網膜 / 蝸牛 / 神経伝達物質放出 / シナプス / 開口放出 / グルタミン酸イメージング / 感覚器 |
研究実績の概要 |
神経終末部にシナプスリボンという共通構造を有する、蝸牛の有毛細胞および網膜の双極細胞での神経伝達物質・グルタミン酸の開口放出動態をグルタミン酸イメージングで比較検討し、聴覚と視覚の情報処理基盤メカニズムを解明する。また、有毛細胞や双極細胞のシナプスリボンをノックアウトした際の効果を解析する。これらの実験により、「蝸牛および網膜において、シナプスリボンはグルタミン酸の開口放出を制御し応答の多様性を作り出すのに寄与する」という仮説を検証する。 平成30年度研究成果: ① 平成29年度に作製したCtBP結合ペプチドをガラス電極経由で金魚網膜双極細胞内に導入し、双極細胞終末部に数十個あるシナプスリボンを標識することに成功した。 ② グルタミン酸蛍光プローブを改良して、金魚網膜双極細胞からのグルタミン酸放出をビデオレート程度(毎秒50フレーム)で捉えることに成功した。 ③ マウス蝸牛内有毛細胞におけるシナプスリボンの機能に関連して、免疫染色によりアクティブゾーン蛋白質Bassoonとシナプスリボン主要構成蛋白質CtBP2の局在について検討したところ、Bassoonにはリボンシナプスに発現しているものと、リボンシナプス外に発現しているものがあることが明らかとなった。 ④ マウス蝸牛内有毛細胞リボンシナプスにおいてOtoferlinがカルシウムセンサーであることを蝸牛神経からのパッチクランプ法にて確認し、更に、Otoferlinが開口放出のモードを制御することを見出し、研究成果を国際誌に原著論文として発表した(Takago H, Oshima-Takago T, Moser T. Front Mol Neurosci. 11:492, 2019)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度には網膜双極細胞特異的に結合するグルタミン酸蛍光プローブが細胞膜だけでなく細胞質内にも取り込まれる問題が生じていたが、平成30年度にはこの問題を解決することが出来た。まずCtBP結合ペプチドにより数十個あるシナプスリボンを標識した上で、改良型グルタミン酸蛍光プローブにより個々のアクティブゾーンから放出されるグルタミン酸由来の蛍光変化を50 frame/secで記録することに成功した。先行研究(Sakaba et al., Neurosci Res. 27:357-370, 1998)と同様に、細胞内液のカルシウムキレート剤(EGTA)の濃度を5 mMに設定した際には、脱分極誘発性のグルタミン酸放出を捉えた蛍光強度変化が一過性と持続性の成分として観察された。また、個々のアクティブゾーンにおける蛍光変化には多様性があり、リボンシナプス特有の性質であることが推測された。 蝸牛内有毛細胞におけるシナプスリボンの機能に関連して、免疫染色によりBassoonとCtBP2の局在について検討したところ、CtBP2と比較してBassoonのpunctaの方が数多く、BassoonにはCtBP2と共局在しているものと、そうでないものが観察された。これより、Bassoonにはリボンシナプスに発現しているものと、リボンシナプス外に発現しているものがあることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究で確立された金魚網膜双極細胞リボンシナプスのグルタミン酸イメージングを継続して実施する。具体的には、脱分極という共通の刺激に対して個々のシナプスの振る舞いがどのように異なるのかを詳細に検討する。金魚網膜双極細胞にはシナプスリボンが存在するシナプスと、存在しないシナプスが混在しているが、これはマウス網膜リボンシナプスにおいてアクティブゾーン蛋白質Bassoonをノックアウトした際に得られる効果(シナプスリボンがシナプス前膜から消失したり遊離したりする)に類似している。このような特性を鑑み、Bassoonノックアウトマウスの代替として金魚網膜双極細胞を用い、シナプスリボンの有無が神経伝達物質放出にどのように影響を及ぼしているかを検討する。以上により、網膜におけるシナプスリボンの機能を解明する。 また、蝸牛内有毛細胞においてBassoonがリボンシナプス内外のいずれにも局在することが確認されたが、Bassoonがリボンの有るシナプスのみならず、リボンの無いシナプスの神経伝達も制御している可能性を示唆する所見である。今後、Bassoonと他のアクティブゾーン蛋白質との相関を調べながら、蝸牛におけるシナプスリボンの役割についても明らかにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:研究代表者の事情により、本研究課題が延期となったため。 使用計画:実験動物購入費、試薬購入費、学会出張費など
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