前年度までに聴覚回路において、電位依存性カリウムチャンネルが感覚情報中継点ある視床の内側膝状体(MGB)の後シナプス領域に局在して発現していることを免疫染色およびin situ hybridizationをもちいて確認した。 本年度は電子顕微鏡を用いて、後シナプス領域の膜表面に電位依存性カリウムチャンネルが発現していることをDAB染色、金コロイド染色の手法を用いて確認した。その発現は電子顕微鏡的にも内側膝状体細胞の樹状突起の後シナプス領域近傍に局在していた。シナプスは対称性あるいは反対称性シナプス、あるいはその両方が認められた。 さらにまた、PV-creマウスに配列依存的EGFP発現AAVを下丘に注入することにより、下丘からの抑制性神経軸索末端のみを染色した。その内側膝状体細胞でのシナプス構造を観察することにより、下丘から内側膝状体への投射は聴覚系独自の神経回路を形成していることを示した。すなわち下丘は抑制性軸索を持つ稀有な回路であるが、それが興奮性投射とともに、シナプスを内側膝状体にて形成しることを示した。 以上の知見は電位依存性カリウムチャンネルが聴覚系独特の役割を果たしていることを示唆している。電位依存性カリウムチャンネルは電気生理学的に細胞応答を早める方向に調整するのみならず、抑制性の入力と同期することでさらにEPSPを鋭く削る作用を有すると考えられる。当課題において見出されたこれらの微細形態学的構造は、速い応答を要する聴覚回路に適応した結果であると推察される。
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