研究課題
申請者はこれまでにフェッレット胎児において、染色やエレクトロポレーション法を用いたCRISPR/Cas9の導入によるAscl1ノックアウトを解析する事により、Ascl1の複雑脳発生における機能に着目し、解析を進めて来た。その結果、マウスでは主に終脳腹側に発現しているAscl1が複雑脳の形成に重要であると思われるoVZでのBPsの増殖に関わっている事を見出した。そこでこれらの知見を基盤として、どのようにAscl1が高等ほ乳類の大脳皮質oVZに発現するように制御されているかを明らかにすることで、複雑脳が発生する分子メカニズムの解明を目指している。平成28年度において申請者は、Ascl1が複雑脳の形成においてどのように関わっているかを、更に詳細に解析した。まず申請者は、神経幹細胞であるradial gliaがどこで、いつ、どのような増殖パターンにより複雑脳を形成するのかを詳細に解析するためのツールを開発に着手した。その結果、子宮内電気穿孔法によりradial gliaにCRISPR/Cas9とドナープラスミドを導入する事により、今までは受精卵やES細胞でのみ可能であった遺伝子ノックイン(KI)を効率よく起こさせる技術を開発した。この結果は既に論文に発表済みである(Tsunekawa et al., Development)。この技術と、CRISPR/Cas9によるAscl1のノックアウトを組み合わせ、複雑脳の発生においてAscl1がどのタイミングで必要化を詳細に解析した。さらに申請者はAscl1をノックアウトしたフェレット胎児脳のスライスを用い、タイムラプス解析を行い更に詳細にAscl1の機能を解析している。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していたヒトAscl1-GFP fusion BAC transgenic mice作成は、BACを作成後受精卵に二度injectionしたが、BACポジティブな個体を得る事が出来なかった。現在新たにBACを精製し直し、再トライ中である。フェレットを使った実験はおおむね順調に進んでおり、新技術とタイムラプス解析により、Ascl1が当初考えられていたoSVZ以外にもVZでも重要な役割を果たしている事が分かって来た。さらにこの新技術を論文にまとめ、報告もした。
29年度は現在行っているフェレットにおけるAscl1の機能解析をより進めていく。具体的には28年度に行って来た新技術によるradial gliaの発生系譜の解析とAscl1のノックアウト実験の試行回数を増やし、更にタイムラプスも組み合わせ、より正確なデータを取っていく。更に同じようにフェレットで解析してきた発生ステージと同等のマウス胎児の終脳背側においてフェレットと同様の実験を行いAscl1の機能がシンプルな脳を持ったマウスと複雑な脳を持ったフェレットでどのように違うのかを詳細に解析する。高等ほ乳類Ascl1の発現調節領域の解析28年度ではうまく行かなかったヒトAscl1-EGFPレポーターマウスを作成し、マウスAscl1とパターンの違いを解析する。さらにデータベース上において数種類の哺乳類ゲノム情報をもとにAscl1 BACに含まれているゲノム領域の比較を行い、げっ歯類など比較的単純な脳を持つほ乳類には存在せず、高等ほ乳類に特異的に保存されている領域が無いかを解析する。もし、そのような配列が見つかった場合、この遺伝子発現調節領域が、いつ頃我々のゲノム上に現れたかを解析し、進化の過程で複雑脳がどのように形成されてきたかを解析する。
フェレットの値段が上がる可能性があったため、次年度に持ち越し様子を見ていた。
実際に実験計画当初よりフェレットの値段が値上がりしてしまったので、その分フェレットを買う予算に使用する。
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Development
巻: 143(17) ページ: 3216-22
10.1242/dev.136325.
Nature
巻: 540(7631) ページ: 144-149
10.1038/nature20565.