研究課題
今年度の主な研究内容として、大阪市立大学の分子病態学の徳永 文稔教授と本研究の共同研究者の和歌山県立医科大学神経内科伊東 秀文教授らとの共同研究で、オプチニューリン(optineurin、OPTN)と直鎖状ユビキチン鎖との関係が、ALS病態において果たす役割について報告した。徳永らはユビキチンが特異的な連結をした、いわゆる「直鎖状ユビキチン鎖」の構造をとることで、神経炎症や神経細胞死に重要なNF-кB(エヌエフ-カッパービー)を介したシグナル伝達経路が活性化されることを報告していた。さらに徳永らは、今回の研究で、細胞モデルにおいて、OPTNが直鎖状ユビキチン鎖に選択的に結合し、NF-кBや細胞死を抑制していることを示した。そこで、当研究室では、共同研究で神経病理学的解析を行い、OPTNの遺伝子変異を有する患者由来剖検脊髄の標本において、直鎖状ユビキチンや活性型NF-кB因子(リン酸化p65)が細胞質凝集体に染色され、細胞死の指標である活性型カスパーゼ3の染色も亢進していることを神経病理組織学的に示した。このことから、実際にオプチニューリン変異に起因するALS患者の運動ニューロンでは、直鎖状ユビキチン鎖や活性化NF-kBが蓄積し、神経細胞死を引き起こしていることをが示唆され、今後、ALS治療の標的になる可能性が示唆された。そのほかにも、珍しい経過をきたしたALSの剖検例の学会報告、京都大学の研究者とALSにおけるTDP43や多系統萎縮症におけるカスパーゼ9の活性など、本病態に関連が深い機序に関して検討し発表した。今後は、孤発性のALSや他の変性疾患についても同様の解析を進めてゆき、上記の経路のより広い病態への関与を追及してゆく。
2: おおむね順調に進展している
OPTNの遺伝子変異を有する患者由来剖検脊髄の標本では直鎖状ユビキチンや活性型NF-кB因子(リン酸化p65)が細胞質凝集体に染色されること、細胞死の指標である活性型カスパーゼ3の染色も亢進していることを神経病理組織学的に示した。同様の検討を孤発性ALSや他の変性疾患でも行っている。また、NFκB経路以外にも、選択的オートファジーのアダプタータンパクについて免疫組織学的検討を行い、OPTNの遺伝子変異を有する患者由来剖検脊髄では、OPTN以外のオートファジー経路が亢進していることを示唆する結果を得ている。
OPTNの遺伝子変異を有する患者由来剖検脊髄の標本で見られたことが孤発性ALSにおいてもみらえることを示し、OPTNを介したNFκBの経路がALS病態一般に関連しているかを検討する。さらには、認知症の原因の多くをしめる疾患であるアルツハイマー病のタウオパチー病理などの変性疾患にも関連している可能性を考えており、今後も同様に病理学的解析を進めていく。
共同研究などで試薬、抗体を貸与してもらうことがあったため、当初の計画より購入費用が少なくなった。
試薬、抗体の購入に使用予定。
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Nat Commun
巻: 7 ページ: 12547
10.1038/ncomms12547.
Neurosci Lett.
巻: 628 ページ: 207-212
10.1016/j.neulet.2016.06.036.