プリオン病は、正常型プリオン蛋白質が異常型プリオン蛋白質に変化し、中枢神経系に蓄積することで認知症や運動障害を呈する致死性中枢神経系疾患である。孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)患者では感染性は神経系組織に限局しているとされてきたが、実際のプリオンの体内分布についてはほとんど解明されていない。プリオン病患者におけるプリオンの体内分布を明らかにするため、試験管内異常型プリオン増幅法(End-point RT-QUIC 法)を用いてプリオン病患者由来組織中のプリオン活性の定量を行った。 本研究では、4症例の孤発性CJD患者より剖検時に採取した臓器(脳・脾臓・肝臓・腎臓・肺・副腎)のRT-QUICを行い、50% seeding dose (SD50)を算出した。脳組織では109-1010/g tissue、非神経系組織においても104-107/g tissueのシード活性が存在することが明らかとなった。さらに、1症例だけではあるが胃・食道・小腸といった消化器系組織についてもシード活性の定量を行ったところ、105-107/g tissueのシード活性が検出された。これまでハムスタープリオン株を用いた研究からSD50は動物試験によるLD50に相関し、かつ検出能は100倍ほど高いと考えられている。よって、孤発性CJD患者の臓器には微量ではあるが、感染性プリオンが存在する可能性が示唆された。 ヒトの孤発性CJD患者の各末梢臓器における感染性は検出限界以下とされていたが、シード活性は末梢臓器にも存在し、高いものでは中枢の1000分の一になることから、低いながらも感染源になりうると考えられる。
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