研究課題/領域番号 |
16K18387
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
山本 由美 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 流動研究員 (10614927)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | CADASIL / 遺伝性脳小血管病 / 脳梗塞 / 病態メカニズム |
研究実績の概要 |
京都大学との共同研究により、iPS細胞を壁細胞に分化誘導・維持する手法の確立に成功した(特許出願中)。こうして得られたiPS細胞由来の壁細胞 (iPSMC) の基本的な細胞機能の解析を行ったところ、CADASILの壁細胞は、増殖能には変化がないものの、接着能および遊走能に異常がある可能性が示唆された。 細胞の接着や遊走には、アクチン代謝が重要な役割を果たす。アクチンは細胞内で単量体のG-Actinとそれが重合したF-Actinの2つの状態で存在し、その状態間を行き来している。細胞の先端でアクチン重合が起こることで細胞が進行方向に伸長し新たな接着部を形成する一方、尾部ではアクチン・ミオシン相互作用により形成されたストレスファイバーにより細胞後部が退縮し、細胞が移動する。これまでに報告されている、Notch3欠損マウスの血管壁細胞でのアクチンの脱重合障害に加え(Domenga V, 2004)、CADASILでアクチン繊維の分岐の増加やnode(節)の形成などのActinの骨格の異常が報告されている(Tikka S, 2012)。また、血管が形成される際には、内皮細胞が発芽、伸長して血管腔を形成し、外側を遊走してきた壁細胞が覆って内皮細胞の安定化を行うが、CADASILにおいて壁細胞の被覆率の減少も報告されている(Lewandowska E, 2010; Ghosh M, 2015)。これまでの研究により、アクチン骨格の異常が再現されただけでなく、マイクロアレイ解析によりアクチン骨格制御および遊走に関係するシグナル経路構成分子の発現に変化があることが示され、アクチン代謝がCADASILの病態に密接に関わっている可能性が高まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに得られた結果は、以前から報告されているin vivo/ in vitroの結果とも整合性があり、CADASILのiPS由来壁細胞から得られた結果は、独自のin vitroの実験系で実際の病態を再現できることを示唆している。このin vitroモデルを使用して、今後治療薬候補の有効性を検証していくことが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
計画通り、アクチンの代謝および構造に影響を及ぼす薬剤の投与で遺伝子変異による血管平滑筋細胞の形態異常および機能異常が改善または増悪されるか検討を行う。平成28年度に確立したin vitro病態モデルを用いて、薬剤の投与によりCADASILで示された異常が改善するかどうかを比較評価する。その結果を踏まえ、NOTCH3トランスジェニックマウスに薬剤またはプラセボを投与し、 血管の機能、脳の病理学的変化と発症遅延効果を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年9月中旬から2017年2月末まで産休および育児休暇を取得しており、研究が中断したため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は化合物のスクリーニング及び動物への投与実験を行うが、当初の予定より多くの治療法の可能性を探る予定である。
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