神経幹細胞は脳発達期の側脳室周囲(増殖帯)に位置し、自己増殖をしながら神経細胞、グリア細胞に分化して脳に細胞を供給する。近年、神経幹細胞の増殖、分化を制御する因子として免疫系が強く寄与していることが明らかになっているが、その詳細なメカニズムは解明されていなかった。未成熟期での免疫系の異常が、様々な神経発達障害や精神疾患の原因になり得ることが指摘されているため、脳発達期における免疫系の機能解明は同疾患の病態解明のために極めて重要である。本研究では、免疫系細胞が神経幹細胞の挙動にどのような影響を及ぼすのかを解明する。これまでの研究により、脳発達期には自然免疫系に関わるNK細胞(Natural Killer細胞)とB-1細胞が多く存在していることを明らかにした。それぞれの細胞を発達期の脳から除去する処置を施すと、NK細胞を除去した際には神経前駆細胞の数が減少し、B-1細胞を除去した際にはオリゴデンドロサイト前駆細胞の数が減少することを見出した。本年度は、B-1細胞がオリゴデンドロサイト前駆細胞の数を制御している分子メカニズムを追究した。遺伝子発現解析や機能阻害実験により、B-1細胞は自然抗体を産生して、オリゴデンドロサイト前駆細胞が発現しているFca/mRを通して増殖を促進していることが明らかとなった。本研究は、脳発達期におけるリンパ球の機能とその分子機序を初めて明らかにした研究である。今後、病態モデルやヒトを対象にした研究により、脳神経疾患との関与が明らかになっていくことが期待される。
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