研究課題/領域番号 |
16K18398
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
濱田 理人 筑波大学, 医学医療系, 助教 (20567630)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | MafB / TAM / macrophage |
研究実績の概要 |
腫瘍随伴マクロファージ(Tumor-associated macrophage: TAM)は、増殖因子、血管新生因子、免疫抑制因子などを発現することにより腫瘍増殖を促進する能力を持つ細胞群である。また、放射線治療や血管新生阻害剤などによる細胞障害が、TAMの誘導に働き、抗がん治療耐性の原因となっている。このためTAMは新たながん治療の重要な標的の一つとして考えられている。本申請研究では、転写因子MafBが未分化なマクロファージ前駆細胞の分化を制御するメカニズムを解明し、脾臓におけるマクロファージ前駆細胞を標的としたTAMを減少させる治療法の基盤を確立することを目的とした。 申請者は、マクロファージに高発現する大Maf群転写因子MafBの、様々な疾患との機能的関連を解析している。申請者はMafb欠損マウスを独自に樹立し解析している。これまでの解析から、マクロファージ特異的にMafbを欠損させたマウス(MafbCKO)にLLC細胞(マウス肺がん細胞)を皮下移植すると、腫瘍の大きさが顕著に大きくなるという結果が得られている。このことはマクロファージにおけるMafBは腫瘍増殖を抑制することに機能するといえる。また腫瘍内のマクロファージ数を測定したところMafbCKOの腫瘍内のマクロファージ数は劇的に増加していることが明らかとなった。これはMafBは腫瘍内のマクロファージ数を決定する因子であり、MafBを過剰発現させるような治療をおこなうことで新たながん治療法確立の基盤となると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去の報告から腫瘍内の腫瘍随伴マクロファージ(TAM)は脾臓から生まれて腫瘍に浸潤すると言われている。マクロファージ特異的にMafbを欠損させたマウス(MafbCKO)の脾臓ではマクロファージ形成因子(M-CSF)に反応するマクロファージ前駆体が多くなることがコロニー形成アッセイ、FACS解析から明らかとなった。またマウスの脾臓を摘出してLLC細胞の皮下移植実験を行ったところ、MafbCKOとコントロールマウスの腫瘍の大きさに差が見えなくなった。このことはMafBは脾臓においてマクロファージ分化を制御していることを示唆している。 またMafbCKOの脾臓内のどの細胞が原因で腫瘍内のTAMが増えているのかを、マクロファージを特異的に除去するクロドロネイトリポソームを用いて検討した。その結果、MafbCKOの脾臓でのマクロファージ前駆体や造血幹細胞数が減少することか明らかとなった。また脾臓マクロファージではMafBが非常に強く発現が見られた。 これらのことより、脾臓内で造血幹細胞がマクロファージに分化する過程で脾臓マクロファージがこの造血過程を制御しておりMafBはマクロファージ分化を抑制することが明らかとなった。 もともと我々の仮説ではMafBがマクロファージ前駆体に直接働いていると予想していたが、予想に反して本研究結果では分化したマクロファージが脾臓での造血の制御を行っており、そこにMafBが働いていることが明らかとなった。今後は脾臓の移植実験などを行ない、詳細なメカニズムを明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
今後はMafbCKOの脾臓でのマクロファージ分化の増加が脾臓マクロファージの異常によるものかをFACS解析を詳細におこなう。また、MafbCKOの脾臓を移植することにより表現型も野生型で再現できるのか確認する。 さらにMafbCKOの脾臓マクロファージをFACSで分取し、RNAシーケンスを行いすべての遺伝子の発現を解析し標的遺伝子予測し分子メカニズムを明らかにする。またMafBはレチノイン酸シグナルの下流にあるので、all trans retinoic acid (ATRA)をマウスに投与し腫瘍の成長が阻害されるのか検討する。
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