研究課題/領域番号 |
16K18399
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
竹鶴 裕亮 基礎生物学研究所, IBBPセンター, 特任助教 (90622283)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | oocyte / maturation |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、過排卵誘起による卵母細胞採取が困難なラット系統の新たな過排卵誘起法および胚保存法の開発にある。3系統のラット(Wistarラット、F344ラット、BNラット)を用いて、過排卵誘起への感受性の違いを調べ、卵巣内の卵母細胞を体外で培養した。また、Wistarラットを用いて、過排卵処理後に採取した前核期胚・桑実胚の凍結保存法を検討し、以下の結果を得た。 1)PMSG/hCGを腹腔内投与により過排卵処理後、成熟した卵母細胞を卵巣より採取した場合、3系統間に有意な差が見られた。しかし、PMSGを投与し48時間後に卵巣より採取した未成熟な卵母細胞数(GV卵母細胞)に有意な差は見られなかった。 2)PMSGを投与し、48時間後に採取した未成熟な卵母細胞を4つの培養液(HTF、αMEM、HTF+αMEM、TYH+αMEM)を用いて16時間体外成熟すると、成熟する卵母細胞が観察された。その後、ストロンチウムを用いて体外成熟した卵母細胞を活性化すると、αMEMを用いて体外成熟させた卵母細胞で多くの卵母細胞の活性化が観察された。 3)さらに、体外成熟した卵母細胞の受精能力を調べるために、体外成熟した卵母細胞と同系統の凍結保存した精子を受精(顕微授精)したところ、系統による産仔数に差は見られたが、産仔へと発生した。 4)ラットの2細胞期胚で実績のある凍結保存法(PEPeS)を用いて、前核期胚および桑実胚の凍結保存を行った。融解後、前核期胚および桑実胚とも正常な胚(外見上)が多く見られ、前核期胚は培養後、2細胞期胚へと発達した胚を偽妊娠雌に移植した。いずれの発達段階の胚からも凍結・融解後、胚移植によって産仔を得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BNラットの過排卵誘起に対する非感受性の原因を調べるために、Wistarラット、F344ラット、BNラットの腹腔内にPMSG(妊馬血清性性腺刺激ホルモン)を投与し、48時間後に開腹したところ3系統における卵胞の発達に差は見られなかった。これにより過排卵誘起に対する非感受性の原因は、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)投与により誘発されるはずの排卵作用に問題があるのではないかと推察した。PMSGの効果が示されたので、3系統のラットそれぞれにPMSGを投与後、開腹し、未成熟な卵母細胞を採取した。採取した卵母細胞を4つの培養液(HTF、αMEM、HTF+αMEM、TYH+αMEM)を用いて培養し、卵母細胞が成熟するかについて調べた。αMEMを用いて成熟させた場合に成熟した卵母細胞が多く観察された。次に、成熟した卵母細胞と凍結保存した精子を用いて顕微授精を行い、胚移植後、産仔を得ることに成功した。また、受精卵の凍結保存にも取り組み、主にWistarラットを用いた結果だが、凍結保存した前核期胚、2細胞期胚、桑実胚から産仔の作出に成功している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究計画として、本研究の目的達成のために、1)BNラットの作出した受精卵および未成熟卵母細胞の凍結保存、2)疾患モデルラット卵母細胞の体外成熟法および受精卵の凍結保存法の開発を行う。 まずはWistarラットで、これまでに受精卵の凍結保存で成功している方法(PEPeS)を用いて、未成熟な卵母細胞を凍結保存し、融解後の生存率を調べる。凍結保存する際には、使用する耐凍剤の種類、濃度、処理温度、毒性、処理時間など検討すべき点が数多くある。生存率が低ければ、ガラス化保存液の濃度、処理温度、処理時間を変え、未成熟な卵母細胞への影響を調べる。融解後、体外成熟・受精後に正常な2細胞期胚が得られれば、偽妊娠雌の卵管内へ移植して産仔の作出を試みる。続いて、BNラットの作出した受精卵および未成熟な卵母細胞の凍結保存を試みる。さらに、ここまでに確立された方法を用いて、疾患モデルラット卵母細胞の体外成熟法および受精卵の凍結保存法を開発する。自然発症ミュータントラットであるIEW/Ihrは、脳神経疾患や眼疾患の研究に有用であるが過排卵誘起により多くの卵母細胞を得ることが難しい。そこで、本研究で開発した体外成熟、体外受精および凍結保存の技術で胚保存を試みる。同様に過排卵を誘起しにくい複数の疾患モデルラット (ACI/Nkyo, LEJ/Hok, KFRS4/Kyoなど)に実施し、系統による違いを比較検討する。系統ごとに未成熟卵母細胞の体外成熟の程度が異なる場合、培養液にホルモン(EGFやFSH)添加するなど培養液組成を変えて体外成熟を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属が変わったため。 京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設から基礎生物学研究所IBBPセンターに移動した。
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次年度使用額の使用計画 |
新たに基礎生物学研究所でラットの実験を立ち上げるための備品・物品購入金として使用する。
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