研究課題/領域番号 |
16K18399
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
竹鶴 裕亮 基礎生物学研究所, IBBPセンター, 特任助教 (90622283)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 胚保存 / 過排卵処理 / 系統差 |
研究実績の概要 |
本年度は、様々な発達段階における胚の保存法の開発を目的とした。まずラットにおける系統差を調べるために、いくつかのラット系統(ACI/NKyo、F344/Stm、BN/SsNSlc、Jcl: Wistar)を用いて、ホルモン投与(PMSG/hCG)による過排卵処理に対する感受性、胚の凍結保存に対する耐凍性、凍結保存した胚の移植後の発生率について検討した。また、Wistarラットを用いて、過排卵処理後に採取した前核期胚・2細胞期胚・桑実胚を凍結保存すると、発達段階の低い胚ほど融解後の発生率が低くなる傾向が見られた。そのため、凍結保存前に前核期胚を培養することで発生率に違いがあるか検討し、以下の結果を得た。 1)PMSG/hCG投与後の系統ごとの平均排卵数には差が見られた(ACI/NKyo: 7.0、F344/Stm: 31.0、BN/SsNSlc: 2.4、Jcl: Wistar: 17.0)。2)凍結-融解後の胚の生存率は、いずれの系統においても65%以上と高く維持されていた。3)凍結-融解後の生存胚を移植した際の産仔率に違いは見られたが、本研究で用いた凍結保存法により過排卵処理後に採取された胚を凍結保存することが可能であり、移植したすべての系統より産仔を得られた(ACI/NKyo: 20%、F344/Stm: 50%、BN/SsNSlc: ND、Jcl: Wistar: 54%)。4)胚の発達段階によって凍結保存に対する耐凍性が異なるが、凍結前に前核期胚を培養することで、凍結-融解後の産仔率が上昇する傾向が見られた(0時間培養: 12%、4時間培養: 25%、7時間培養: 24%)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
近交系・クローズドコロニーなどいくつかのラット系統を用いて、過排卵処理(PMSG/hCG)により胚採取を行ったところ、採取される平均採卵数には違いが見られ、ホルモン投与に対する感受性に違いがあることが分かってきた。平成28年度に得られた過排卵誘起に対する非感受性の違いは、Wistarラット、F344ラット、BNラット間だけでなく、系統間において差が出る結果となった。採取した胚を凍結保存した際の耐凍性に差は見られなかったが、凍結保存した胚の移植後の発生率について、系統間で差が見られた。これは凍結保存した胚には見た目では確認できないダメージを負っているためと推測される。また、発達段階の異なる胚(前核期胚、2細胞期胚、桑実胚)を凍結保存し融解後、移植すると発達段階の低い胚ほど、産仔への発生率が低いことが示された。そこで、前核期胚を凍結保存する前に培養し、凍結保存後の胚の発生率を検討したところ、培養した前核期胚で高い産仔率が得られた。このことから、同じ前核期胚であっても発達の進んだ前核期胚ほど凍結保存に対する耐凍性が高くなることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究計画として、本研究の目的達成のために、1)Wistarラットを用いた未受精卵の凍結保存、2)BNラットの作出した受精卵および未成熟卵母細胞の凍結保存、3)疾患モデルラット卵母細胞の体外成熟法および受精卵の凍結保存法の開発を行う。 まずはWistarラットを用いて、これまでに受精卵の凍結保存で成功している方法(PEPeS)を用いて、未成熟な卵母細胞を凍結保存し、融解後の生存率を調べる。生存が確認されれば、ストロンチウムを用いて活性化し、凍結保存した未受精卵の発生能力について検討する。凍結保存する際には、使用する耐凍剤の種類、濃度、処理温度、毒性、処理時間など検討すべき点が数多くある。生存率が低ければ、ガラス化保存液の濃度、処理温度、処理時間を変え、未成熟な卵母細胞への影響を調べる。融解後、体外成熟・受精後に正常な2細胞期胚が得られれば、偽妊娠雌の卵管内へ移植して産仔の作出を試みる。続いて、BNラットの作出した受精卵および未成熟な卵母細胞の凍結保存を試みる。さらに、ここまでに確立された方法を用いて、疾患モデルラット卵母細胞の体外成熟法および受精卵の凍結保存法を開発する。自然発症ミュータントラットであるIEW/Ihrは、脳神経疾患や眼疾患の研究に有用であるが過排卵誘起により多くの卵母細胞を得ることが難しい。そこで、本研究で開発した体外成熟、体外受精および凍結保存の技術で胚保存を試みる。同様に過排卵を誘起しにくい複数の疾患モデルラット (ACI/Nkyo, LEJ/Hok, KFRS4/Kyoなど)に実施し、系統による違いを比較検討する。系統ごとに未成熟卵母細胞の体外成熟の程度が異なる場合、培養液にホルモン(EGFやFSH)添加するなど培養液組成を変えて体外成熟を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属機関の変更に伴い、研究に若干の遅れが生じた。翌年度分として請求した助成金と合わせて、平成29年度予定の未受精卵の凍結保存実験で使用されるはずであったラット購入費、また、平成30年度実施予定のBNラットの作出した受精卵および未受精卵の凍結保存で使用するBNラット、あるいは疾患モデルラットの購入費に使用する予定である。
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