本研究では、ヒト大脳化への影響が期待される候補遺伝子、非コード領域の両方を対象とし、候補領域の選抜、およびゲノムヒト化マウスの作製および表現型解析を目指した。本年度は、Cdk5rap2遺伝子のヒト型改変マウス、マウスで高度に保存された非コード領域のゲノムヒト化マウスの系統化と表現型解析を実施した。 小頭症の原因遺伝子として知られているCdk5rap2遺伝子のN末端部分を欠損したマウスで肥満の表現型が得られたことから、この部分をヒト型配列に置換したCdk5rap2-KIマウスをCRISPR/Cas9を用いて作成し、系統化した。通常飼育下および高脂肪食時において経時的に体重測定を行った結果、ホモKIマウスは体重の増加率が高い傾向を示した。血液を用いた生化学検査を行った結果、測定項目で有意な差は得られなかったが、空腹時血糖で高い傾向が見られた。以上からCdk5rap2でヒトが特異的に持つアミノ酸配列がエネルギー代謝しいては体のサイズに影響を示す可能性が示唆された。 一方、霊長類ゲノムとの比較ゲノム解析により、げっ歯類とその他の哺乳類でそれぞれ高度に保存された7番染色体上約2kbの非コード領域SBG1に着目をしてきた。哺乳類培養細胞におけるLuciferaseアッセイによりSBG1の発現制御活性を測定した結果、げっ歯類特異的配列が下流の遺伝子発現を抑制するサイレンサーの役割を持つことが示された。そこで同領域の大規模欠失マウス(SBG1-LD)およびヒト配列置換マウス(SBG1-KI)を作製した結果、SBG1-KI系統についてホモ型個体の産子率が低いことが明らかになったが、生まれてきた産子は通常飼育下において表現型の差は見られなかった。以上の結果から、進化の過程でヒト特異的に生じた遺伝子変異、非コード領域がマウスの発生や体重などの表現型に影響を与えうることが明らかになった。
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