本研究課題では、複数外来遺伝子を導入した人工染色体を保持するマウス(以下Tcマウス)を効率よく作製するために、発生工学技術を応用した新規Tcマウス作製方法の開発を試みた。 新しいTcマウス作製方法を開発するにあたり、まずはGFP遺伝子を搭載したマウス人工染色体ベクターを保持するマウスES細胞(MT20)を作製し、新規Tcマウス作製方法の開発に使用した。 今回は、(1)MT20をドナー核とした体細胞核移植による作製方法、(2)顕微受精技術を応用した微小核移植による作製方法について検討を行った。(1)を行ったところ、22.6%の体細胞核移植胚が2細胞期胚になり、更にこれら2細胞期胚を仮親マウスに移植したところ、MT20由来クローン産仔が得ることに成功し、その割合は7.1%であった。(2)についてはMT20から精製した微小核をBDF1精子と共にBDF1未受精卵に注入する方法を行ったが、この方法ではTcマウスが得られなかった。 (1)により得られたMT20由来クローンマウスの各主要臓器についてGFPの発現を観察したが、蛍光観察と免疫染色では確認できなかった。一方で、このクローンマウスは遺伝的背景検査によりMT20由来であることが確認できた。そこで、このマウスの繊維芽細胞を用いて染色体解析を行い、MACベクターの有無を確認したところ、MACベクターを保持している細胞の割合は13.3%であることがわかった。 本研究課題で、MACベクターを保持するマウスES細胞をドナー核とした体細胞核移植でTcマウスを作製することに成功した。しかしながら、体細胞核移植の成功率、クローンTcマウスでの人工染色体の安定性については今後の検討が必要である。
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