研究課題
生体内で造腫瘍能をもつ、いわゆる「がん幹細胞」は主に免疫不全マウスを用いた解析で同定されてきた。しかし、がん幹細胞と呼ばれる細胞集団であっても免疫学的に正常な個体内では腫瘍形成能を示さないケースもある。実際に、問題となるヒトのがんのほとんどは正常な免疫系を有する個体から発生する。私は、個体を死に至らしめる「がん」という事象の発生過程において、がん細胞と免疫系との相互作用は決して無視できないという考えのもと研究を進めてきた。これまでの研究で、がん幹細胞は免疫細胞に細胞老化様ともいえる表現型を誘導すること、老化関連遺伝子が高発現することを見出した。またそのような免疫細胞は免疫抑制性の分子を産生することを示唆するデータを得た。さらに、がん幹細胞選択的に発現する免疫関連因子を複数同定した。この免疫関連因子をCRISPR/Cas9システムにより欠損させたがん幹細胞は、免疫不全マウスにては依然として造腫瘍能を有していたが、免疫学的に正常な野生型マウスでは造腫瘍能を失うことが観察された。今後、がん幹細胞がどのような機構により免疫細胞に細胞老化様および免疫抑制性の表現型を誘導するのかを解析するとともに、がん幹細胞による免疫細胞老化誘導が、免疫学的に正常な個体における腫瘍形成や個体死に及ぼす影響を明らかにする。究極的には、本研究で得られた知見をもとに、がん幹細胞誘導性の免疫細胞老化機構を標的とする効果的ながん治療法の開発を目指している。
2: おおむね順調に進展している
おおむね計画通りに研究を遂行し、実験結果を得た。
今後は、がん幹細胞がどのような機構により免疫細胞に細胞老化様および免疫抑制性の表現型を誘導するのかについて、分子レベルで明らかにする。また、がん幹細胞による免疫細胞老化誘導が免疫学的に正常な個体における腫瘍形成や個体死に及ぼす影響を各種遺伝子のノックアウトマウスを活用した解析にて明らかにする方針である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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http://www.igm.hokudai.ac.jp/Immunobiology-Web/Home.html