研究課題
炎症とがんについてはその関連性が言われて久しく、炎症環境からがんが発生するとも言われるほどである。炎症環境では免疫系が活性化状態にあることを想起させる。実際に、腫瘍微小環境にはさまざまな免疫細胞が浸潤していることが知られている。一方で、(慢性炎症状態にあるとされる)がん微小環境は免疫抑制的な環境であることも知られており、両者は矛盾する。我々は最近、この矛盾を解くカギの一つとして、炎症環境下における免疫細胞の細胞老化の関与がある可能性を示唆するデータを得た。本研究の目的は、がん幹細胞(造腫瘍細胞)による免疫細胞の細胞老化を実証すること、免疫細胞に対する細胞老化誘導性の免疫抑制現象を検証することである。我々は、造腫瘍細胞はそれ自身が炎症性サイトカインを分泌する細胞であり、Mφに細胞老化様のフェノタイプを誘導することを見出した。更にこの細胞老化様フェノタイプを呈するMφは、老化線維芽細胞で見られるような炎症遷延性ではなく、免疫抑制性の分子を高発現していた。通常、“細胞老化”によって生じる老化関連分泌表現型(SASP)といえば炎症遷延性の現象を想起させるが、我々の研究結果から、細胞老化によりもたらされる表現型は細胞種により異なる可能性が示唆された。また、SASP因子は直接的に腫瘍形成に貢献しているのではなくMφを抑制性表現型へと導くことで免疫健常動物における腫瘍発生母地の形成に貢献している可能性が考えられた。今後、造腫瘍細胞により誘導されるによるMφの老化と免疫抑制能の獲得が相互に直接リンクしているのかあるいは独立した事象であるのかを明らかにし、新たながん治療法の開発へとつなげたい。
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Sci Rep
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