研究課題/領域番号 |
16K18410
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
倉元 謙太 山形大学, 医学部, 助教 (80768755)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / グルタミン代謝 |
研究実績の概要 |
申請者は、先行予備実験で膵がん幹細胞においてグルタミンの欠乏ががん幹細胞マーカーであるSox2やNanogの発現量を減少させることを見出していた。しかしながら、グルタミン代謝がどのような分子機構でがん幹細胞性の維持に関与しているかは不明であった。そこでその分子機構の解明を目指し研究を進めた。 膵がん幹細胞以外に卵巣がん幹細胞でもグルタミンの欠乏によりがん幹細胞マーカーの発現量が減少し、さらにこれらの細胞ではグルタミンの欠乏により細胞増殖抑制とsphere形成能の低下も引き起されることを明らかにした。これらの結果より、膵がん幹細胞と卵巣がん幹細胞において、グルタミンはがん幹細胞性の維持に重要であることを明らかにした。 グルタミン代謝ががん幹細胞性を維持する機構としては、グルタミンとその代謝産物がヒストンアセチル化や糖鎖修飾、または酸化ストレス制御を介してがん幹細胞性維持に関与している可能性が挙げられる。まず初めにグルタミンの代謝中間産物であるアセチルCoAがヒストンのアセチル化修飾を介してがん幹細胞性の維持に関与している可能性を検討した。その結果、グルタミンの欠乏により膵がん幹細胞と卵巣がん幹細胞ともにヒストンH3の27番目のリジン残基のアセチル化の程度が減少することを明らかにした。 次にグルタミン代謝がタンパク質の糖鎖修飾を介してがん幹細胞性を制御している可能性に関しても検討を行った。グルタミンの欠乏により膵臓がん幹細胞におけるグリコシル化タンパク質量が減少することを明らかにした。 これらの結果から、グルタミンとその代謝産物がヒストンのアセチル化や糖鎖修飾を介してがん幹細胞性を制御している可能性を示せた。しかしながら、これらの経路に関して救援実験を行ったが、がん幹細胞性の低下を止めることができず、これらの経路ががん幹細胞性を制御している可能性は低いことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験計画に基づき膵がん以外のがん種由来のがん幹細胞においてもグルタミンががん幹細胞性に与える影響を検討した。その結果グルタミンの欠乏により卵巣がん幹細胞でも、がん幹細胞マーカーのSox2とNanogの発現量が低下したが、グリオーマ幹細胞ではそのような変化はみられなかった。さらに、膵がん・卵巣がん幹細胞ではグルタミンの欠乏により細胞増殖抑制とsphere形成能の低下が起きることを明らかにした。 次にグルタミン欠乏による幹細胞性抑制の機構を明らかにするために、複数あるグルタミン代謝の下流のうち、ヒストン修飾を介してがん幹細胞性の維持に関与している可能性を検討した。膵がん・卵巣がん幹細胞では、グルタミン欠乏によりヒストンH3の27番目のリジン残基のアセチル化が抑制されていたが、救援実験としてアセチルCoAの前駆体である酢酸を加えても、グルタミン欠乏によるヒストンアセチル化の抑制とがん幹細胞性の低下は救援されず、グルタミン代謝がヒストン修飾を介してがん幹細胞性を制御している可能性は低いことが示唆された。また、グルタミン代謝がタンパク質の糖鎖修飾を介してがん幹細胞性の維持に関与している可能性の検討を行った。細胞内グリコシル化タンパク質量を調べたところ、グルタミンの欠乏により膵がん幹細胞ではグリコシル化タンパク質量は低下した。しかしグルコサミン添加による救援実験では、グルタミン欠乏によるがん幹細胞性の低下は抑制されず、グルタミン代謝がタンパク質の糖鎖修飾を介してがん幹細胞性の維持に関与している可能性は低いことが示唆された。 複数のがん幹細胞においてグルタミンの欠乏はがん幹細胞性を低下させる事を明らかにしたがその機構は今回検討を行った2つの経路ではない可能性が示唆され、分子機構候補を絞ることが出来ていない。これらの結果から進捗状況は予定と同等もしくはやや遅れ気味であると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、グルタミンの欠乏ががん幹細胞性の低下を引き起こさすことを膵がん幹細胞と卵巣がん幹細胞で見出し、グルタミン代謝はがん幹細胞性の維持に重要な役割を担っていることが明らかとなったが、その分子機構は明らかにできていない。グルタミンとその代謝産物が、ヒストン修飾やタンパク質の糖鎖修飾以外の分子機構を介してがん幹細胞性の維持に関与している可能性がある。その1つとして酸化ストレス制御によるがん幹細胞性の維持が考えられる。グルタミンはグルタチオン生合成に重要であり、グルタミン欠乏がグルタチオンの枯渇と活性酸素種(ROS)の増大を引き起こし、がん幹細胞性低下を誘導している可能性がある。そこで今後は、細胞内ROS量など酸化ストレスに着目し研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述の通りグルタミンの欠乏が、がん幹細胞性を低下させる分子機構を明らかにするために申請書に記載の仮説に基づき研究を進めたが、実験結果が今までの所、仮説通りの結果が得られておらず、その為当初の実験計画で想定していた、免疫クロマチン沈降法と次世代シーケンサーを用いたChIP-seq法により、ゲノムワイドにヒストンのアセチル化領域のマッピングや、安定同位体を用いた実験などを行わなかった為に次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
新たな仮説に基づき研究を進めるにあたり、そこで新たに必要となる抗体や試薬類の購入に使用する予定である。
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