申請者は、先行予備実験で膵がん幹細胞においてグルタミンの欠乏ががん幹細胞マーカーであるSox2やNanogの発現量を減少させることを見出していた。しかしながら、グルタミン代謝がどのような分子機構でがん幹細胞性の維持に関与しているかは不明であった。そこで、その分子機構の解明を目指し本研究を進めた。 前年度までに、膵がん幹細胞以外に卵巣がん幹細胞でもグルタミンの欠乏によりがん幹細胞マーカーの発現量が減少し、さらにこれらの細胞ではグルタミンの欠乏により細胞増殖抑制とsphere形成能の低下も引き起されることを明らかにした。しかしながら、グルタミン代謝産物であるアセチルCoAやグルコサミンを培地に添加する救援実験では、グルタミン欠乏によるがん幹細胞性の低下は抑制されなかった。 今年度は、膵がん幹細胞を主に使用し、グルタミンの欠乏ががん幹細胞性を低下させる分子機構の解明を目指し、グルタミンとは別のアセチルCoA供給源である脂肪酸を培地に添加するグルタミン欠乏の救援実験、及びグルタミンの欠乏が細胞内活性酸素種(ROS)量に与える影響に関して研究を進めた。脂肪酸であるオレイン酸を培地に添加することにより、グルタミンの欠乏によるがん幹細胞マーカー (Sox2、Nanog、Oct4)の減少は抑制された。一方で、ヒストンH3の27番目のリジン残基の脱アセチル化は抑えられなかった。また、細胞増殖速度もオレイン酸添加では回復しなかった。次にグルタミンはグルタチオン生合成に重要であることから、グルタミンの欠乏が細胞内グルタチオン量の減少を介し、細胞内ROS量に与える影響について検討した。グルタミン欠乏培地で培養した膵がん幹細胞内のROS量を測定したが、グルタミン欠乏下でもROS量は増大せず、グルタミンの欠乏がROSの増大を介してがん幹細胞性に影響を与えている可能性は低いことが示唆された。
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