研究課題/領域番号 |
16K18411
|
研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
三沢 彩 日本医科大学, 大学院医学研究科, 助教 (20598453)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | lncRNA / TNSAP / HOTAIR / エピジェネティクス / 石灰化 / 前立腺がん |
研究実績の概要 |
平成28年度は骨肉腫細胞株におけるアンドロゲン応答性非コードRNA (long non-coding RNA, lncRNA) HOTAIR の発現及び機能解析を行い、骨の石灰化において HOTAIR が TNSAP の発現をエピジェネティックに制御することを明らかにした。 初めに、ヒト骨肉腫細胞株 Saos2 の石灰化において HOTAIR が関与するか調べた。HOTAIR をターゲットとした siRNA を細胞にトランスフェクションして石灰化を誘導した結果、HOTAIR の抑制により石灰化が亢進する傾向が認められた。siRNA を用いた HOTAIR の抑制により TNSAP の発現誘導が定量的 RT-PCR 法で認められ、更にアルカリフォスファターゼ活性の上昇も認められたので、 HOTAIR は TNSAP を介して石灰化を負に制御していることが示唆された。 HOTAIR はターゲット遺伝子のプロモーターに結合し、ヒストン H3K27 のメチル化、ヒストン H3K4 の脱メチル化によって遺伝子の発現を抑制することが知られている。そこで、HOTAIR による TNSAP の制御がエピジェネティックな機構によって行われているか、TNSAP のプロモーター領域のヒストンのメチル化状態を ChIPアッセイ法で調べた。siRNA で HOTAIR を抑制した細胞ではコントロール細胞と比較して、TNSAP のプロモーター領域のヒストン H3K27 のメチル化が減少し、逆にヒストン H3K4 のメチル化が上昇していた。HOTAIR が骨肉腫細胞の石灰化において TNSAP を抑制することが示唆され、そのメカニズムがヒストンの化学修飾の変化を介したエピジェネティックな制御方法であることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前立腺がんは進行すると骨に転移しやすいことが知られている。また、アンドロゲン応答性非コードRNA である HOTAIR は前立腺がんの転移に関わることが報告されてきた。一方、骨の石灰化において中心的な役割を果たす Tissue non-specific alkaline phosphatase (TNSAP) は転移性前立腺がんの増殖に関与し、患者の無病生存率に関与することが報告されている。本研究では前立腺がんと石灰化の関連性を調べ、HOTAIR が TNSAP の発現をエピジェネティックに制御することによって骨の石灰化のみならず、前立腺がんの骨転移にも関与しているという仮説を立て、実証実験を行った。 ヒト骨肉腫細胞株 Saos2 の石灰化を誘導した際、 HOTAIR を抑制した細胞では石灰化が亢進し、 TNSAP の発現が誘導され、アルカリフォスファターゼ活性が上昇したので、 HOTAIR は TNSAP を抑制することにより石灰化を負に制御していることが示唆された。ChIPアッセイ法では HOTAIR が TNSAP のプロモーター領域のヒストンの化学修飾を変化させ、エピジェネティックな機構によって TNSAP を抑制していることを見出した。 更に、石灰化に関与し得る新規 lncRNA を公開データベースより探索し、 TNSAP と共に石灰化を司る遺伝子のアンチセンス側からlncRNA-A が発現していることを発見した。この遺伝子はアンドロゲン応答性であり、前立腺がん細胞で発現していることが報告されている。新規 lncRNA-A の siRNA を用いて Saos2 に石灰化を誘導した際、lncRNA-A を抑制した細胞では石灰化及びアルカリフォスファターゼ活性が抑えられる傾向が認められ、石灰化・骨転移のメカニズムを解明する新たな知見につながる手がかりを得た。
|
今後の研究の推進方策 |
TNSAP のプロモーター領域を調べ、公開データーベースをもとに転写開始点より約 15kb 上流に RE1 Silencing Transcription Factor, REST 結合領域が存在することを見出した。REST は HOTAIR と結合する因子であり、ヒストン H3K4 の脱メチル化に関与している。また、REST 結合領域の直近には GA-rich な DNA 結合モチーフが存在すことを見出し、 HOTAIR はこの配列を認識して TNSAP のプロモーター領域に結合していることが予想される。この仮説を検証するため、同定した GA-rich 配列および REST 結合領域を含む約 800 bp の配列を Luciferase プラスミドにクローニングした。今後、このプラスミドと siHOTAIR を細胞に挿入し、HOTAIR の発現変化により TNSAP のプロモーター活性が変化するか、Reporter gene assay 法で検証実験を行う予定である。 骨に転移した前立腺がんから樹立された前立腺がん細胞である VCaP は TNSAP を発現していることが知られている。そこで、 VCaP を用いて上記と同様の手法で石灰化アッセイが可能か確認し、前立腺がんでも HOTAIR による TNSAP のエピジェネティックな発現調節機構が働くか検証する。HOTAIR が骨転移した前立腺がん細胞の増殖に関与している可能性が考えられ、転移における lncRNA の新たな役割が明らかにされることが期待できる。 更に、今回同定した新規 lncRNA-A の発現領域を詳細に調べ、骨肉腫細胞株及び前立腺癌細胞株における役割を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年6月1日から9月30日までの期間、出産・育児のため研究が中断されていた。 また、計画当初はアンドロゲン応答性 lncRNA を新規に同定するため RNA シークエンスが予定されていたが、実験を進めるにつれて既知の lncRNA HOTAIR が骨の石灰化と前立腺がんの骨転移を結びつける重要な因子である可能性が示唆され、HOTAIR による TNSAP の発現制御機構を詳細に調べることとした。更に、公開データベースより新規アンドロゲン応答性 lncRNA として lncRNA-A を発見し、その機能解析により石灰化を制御していることが示唆されたため、研究の導入段階では RNA シークエンスを行う必要がなくなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は骨肉腫細胞株以外に前立腺がん細胞株を用いて研究を広げ、骨転移を中心に研究を進めていく。その際、試行錯誤を重ねて新たな実験系を立ち上げる。lncRNA-A の機能を詳細に調べるため、マイクロアレイやシークエンスなどを行って網羅的なアプローチから解析を行う予定である。 平成29年度からは分子解剖学の研究室に所属が変更となったため、解剖学的な視点からも転移のメカニズムを解明していく方針である。
|