Hippo経路は接触阻害や器官サイズの制御を担う、接着分子を受容体とする腫瘍抑制シグナルであると考えられているが、その接着受容体は特定されていなかった。本研究において、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する細胞接着分子でありがん抑制タンパク質として機能するCADM1が、Hippo経路の構成分子群と相互作用しYAP1のリン酸化を促進すること、さらにCADM1とLATS2が細胞膜において共局在する肺腺がん症例が予後良好を示すことを明らかにした。 まず、CADM1はYAP1の過剰発現により上昇したNIH3T3細胞の飽和密度を有意に抑制し、また肺腺がん細胞株においてYAP1の127番目のセリン残基におけるリン酸化を促進し、YAP1標的遺伝子群の発現を低下させた。CADM1はMST1/2及びLATS1/2を含むHippo経路構成分子群と共沈したことから、CADM1が細胞接着面においてMST及びLATSをリクルートしHippo経路の活性化に関与することが示唆された。 次に、肺腺がん検体の免疫組織化学的解析を行い、主に低グレードの症例においてCADM1とLATS2の細胞膜における共局在を認め、CADM1及びLATS2両方が陽性の症例はYAP1の発現に関わらず予後良好であった。一方で、CADM1及びLATS2両方が陰性の場合に限り、YAP1が核に局在する症例が予後不良を示したことから、CADM1によるHippo経路の制御がYAP1のがん遺伝子としての機能の抑制に重要であると考えられた。 これらの結果から、CADM1がHippo経路の接着受容体として肺腺がんの抑制に機能し得ることが示唆された。
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