研究課題
JMJD3はヒストンH3K27に対する脱メチル化酵素である。我々はJmjd3のコンディショナルノックアウト(cKO)マウスを作製し、Jmjd3 欠失造血幹細胞は競合的骨髄移植おいて造血再構築能が低下していること、およびMLL-AF9 融合遺伝子による白血病発症に抵抗性であること、を見いだした。その基盤となる分子機構を解明する目的で、コントロールおよびJmjd3欠失造血幹細胞からRNAを抽出し、次世代シークエンサーを用いて網羅的な遺伝子発現解析を行なった。さらに、これらの遺伝子発現変化についてGSEA(gene set enrichment analysis)によるパスウェイ解析を行なったところ、Jmjd3欠失造血幹細胞はコントロール造血幹細胞に比較して細胞周期が有意に亢進していることが明らかとなった。そこで、細胞周期関連遺伝子に注目してその発現変化を定量PCRにより解析したところ、Jmjd3欠失造血幹細胞ではInk4a locusに存在するCDK阻害タンパク質(cyclin-dependent kinase inhibitor, CDKI)であるp16Ink4aとp19Arfの発現が有意に低下していることが見いだされた。さらに、JMJD3とH3K27me3に対する抗体を用いてChIP PCRを行ない、JMJD3はInk4a locusに直接結合していること、およびH3K27のメチル化レベルが低下していることも示された。これらの結果から、JMJD3は造血幹細胞においてInk4a locusに結合し、ヒストンH3K27を脱メチル化しp16INK4a、p19ARFの発現を亢進させ、replication stressおよびoncogenic stressにおいて造血幹細胞が過度に細胞周期に移行しない様に調節することにより幹細胞機能維持に寄与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
H28年度の目標としては、1)定常状態およびMLL-AF9 導入による正常造血幹細胞とJmjd3 欠失造血幹細胞における遺伝子発現プロファイルの比較検討、2)JMJD3 欠失により発現変化を認める遺伝子についてJMJD3 の直接標的遺伝子かどうかの検討、および3)同定された遺伝子が正常造血幹細胞維持および白血病抵抗性の原因であることの確認、の3つを提唱した。このうち、1)についてはコントロールおよびJmjd3欠失造血幹細胞を用いて網羅的遺伝子発現解析を行ない、Jmjd3欠失造血幹細胞において細胞周期が有意に亢進していることを見いだし、その原因としてp16Ink4aとp19Arfを同定した。2)については、JMJD3とH3K27me3に対する抗体を用いてChIP PCRを行ない、JMJ3はこれらの遺伝子座に直接結合し遺伝子発現を調節していることを確認した。これらの結果から、1)と2)についてはほぼ達成されたと考えている。3)については、p16Ink4aとp19ArfがJMJ3の直接標的であることが明らかとなったので、Jmjd3欠失正常造血幹細胞および白血病幹細胞にp16Ink4aとp19Arfを発現させ、Jmj3 cKOマウスで認められた表現型が回復するかどうかについて検討する予定である。
H29年度は、上記に記載した様にH28年度の目標3)であるp16Ink4aとp19Arf導入によるJmjd3欠失のレスキュー実験を引き続き行なうと共に、当初の予定である1)Jmjd3 過剰発現系を用いた正常造血幹細胞機能維持および白血病感受性亢進の解析、2)MLL-AF9 白血病に対するヒストンH3K27 脱メチル化酵素阻害剤GSK の効果の検討、について検討することを予定している。H28年度の目標3)については、現在Jmjd3欠失造血幹細胞にレトロウイルスを用いて、または直接mRNAまたは蛋白質を導入することにより、p16Ink4aとp19Arfの発現を試みている。H29年度の1)については、すでに、Jmjd3 コンディショナルノックイン(cKI)マウスは得られており、発現誘導後のJMJD3の高発現について確認し、造血系一般について解析を行なうと共に、造血幹細胞活性の変化、白血病感受性の変化について解析を試みる。H29年度の2)については、MLL-AF9による正常造血細胞の白血病化に成功しており、造血細胞の継代培養、コロニー樹立、免疫不全マウスへの移植による白血病発症について確認を終了している。これらのアッセイ系に様々な濃度でJMJD3 に対する阻害薬として開発されたGSK(GlaxoSmithKline)-J1(GSK-J1)とさらに阻害効果が高いGSK-J4を投与し、in vitroおよびin vivoの両面からJMJD3 阻害薬のMLL陽性 白血病への治療応用の可能性について検討を行なう。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 1件)
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