研究課題/領域番号 |
16K18419
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
土谷 佳弘 広島大学, 医歯薬保健学研究院(医), 助教 (90611301)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 肝炎 / 肝がん / IKK |
研究実績の概要 |
肝細胞がん(HCC)の発生は慢性炎症と密接に関連する。肝炎ウイルスの感染や、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などによる慢性炎症により肝線維化が進行し、肝硬変の病態を介して最終的にHCCに至る。しかし、どのような分子機構を介して肝細胞がんが発生するのかは未解明であり、このためにHCCの発生を防止する方法はおろか、肝硬変に対する治療戦略も確立していない。 炎症で重要な役割を果たすIκBキナーゼβ(IKKβ)遺伝子を改変することにより、出生直後から肝細胞死が誘導されて、慢性炎症による肝線維化(肝硬変)の病態を呈するマウスを樹立することに成功した。興味深いことに、IKKβ遺伝子を肝細胞特異的に欠損したマウスではDENによる化学発がんが亢進するのに対して、申請者が開発した肝細胞特異的なIKKβ遺伝子の改変マウスでは、DENによる化学発がんの亢進がほとんど見られない。この分子機構を解析したところ、慢性炎症が進行している肝臓では、TNFαやIL-1により肝細胞特異的な転写因子であるHNF4αによる遺伝子発現誘導が抑制されていることが、この発がん抑制の原因であることを見いだした。興味深いことに、遺伝子発現の抑制はHNF4αの活性阻害に起因するものではなく、炎症に伴うエピジェネティクスな変化によるクロマチン構造の改変が関与している可能性が見いだされた。この研究成果は、炎症による発がん制御において新しい分子機構の解明につながるものであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①Tg-NLS-IKKβKN IKKβΔhepマウスにおける肝線維化の分子機構
Tg-NLS-IKKβKN IKKβΔhepマウス(Alb-creを発現する)をコラーゲンプロモーターの下流でGFPが発現するマウス(Col-GFP)やCre発現レポーターマウス(Rosa-LSL-tdTomato)とTg-NLS-IKKβKN IKKβΔhepマウスの交配マウスの作成が遅れている。
②肝細胞のネクローシスの分子機構 Tg-NLS-IKKβKN IKKβΔhepマウスを、TNFα受容体1欠損マウス(TNFR1-/-)やRIPK3欠損マウス(RIPK3-/-)と交配する。また肝細胞でIKKβを欠失するIKKβΔhep、TNFR1とIKKβを欠失するTNFR1-/- IKKβΔhep、RIPK3とIKKβを欠失するRIPK3-/- IKKβΔhep、の各マウスを用意して、アデノウイルスを用いてNLS-IKKβKN遺伝子を導入する。各マウスにおけるネクローシスの誘導を解析を予定している。しかし、これらの各マウスの作成が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
核内IKKβの発現による肝線維化誘導、HCC抑制について、それぞれの現象の基盤となる分子機構を解析する。KrasG12Dマウスを用いた遺伝的発がんモデル実験や肝がん前駆細胞(HcPCs)の移植実験によりHCCの抑制機構を解析する。最終的に核内IKKβの機能を分子生物学・生化学的に解析して、核内IKKβによる肝線維化とHCCの制御機構を解明する。 IKKβΔhepマウスにDENを投与して2~3ヶ月経過後の肝臓にコラゲナーゼ処理をおこない肝細胞を回収すると、がん幹細胞マーカーCD44陽性の肝がん前駆細胞(HcPCs)の細胞集団が回収される。この細胞をRetrorsineで処理したマウスの脾臓に移植してCCl4で処理すると、HcPCsに由来するHCCが肝臓に生じる(Cell 155.384.2013)。この実験系を用いて、肝線維化を呈したTg-NLS-IKKβKN IKKβΔhepにおけるHCCの発生を解析する。まずIKKβΔhepマウスをCAG-GFPマウスと交配してGFP発現マウスを作成する。このマウスをドナーマウスとして、DENの投与によるHcPCsの細胞集団を回収する。次にドナーマウスから回収されたHcPCsをレシピエントマウスIKKβf/f、IKKβΔhep、Tg-NLS-IKKβKN IKKβf/f、Tg-NLS-IKKβKN IKKβΔhepの4種類のマウス(GFPを発現しない4種類の遺伝子改変マウス)の脾臓に移植して5ヶ月後のHCCの発生を解析する。移植したHcPCsに由来するHCCの発生はGFP発現を指標に確認する。最終的に肝線維化とHCC発症の連関を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画よりも進展があったため、クロマチンIP(CHIP)シークエンス解析を複数回おこなう予定であった。 最終的に平成28年度ではCHIP-seqを1回のみおこなうことなったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当初計画よりも進展があったため、クロマチンIP(CHIP)シークエンス解析を複数回おこなう予定であった。 最終的に平成28年度ではCHIP-seq1回のみおこなうことなったため、次年度使用額が生じた。 平成29年度では引き続き(CHIP)シークエンス解析をおこなう予定である。CHIP解析より、HNF結合サイトのヒストンメチル化、アセチル化などクロマチン修飾の変化を網羅的に解析する。
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