研究課題
我々はこれまでに骨芽細胞分化の誘導により骨髄腫(MM)細胞の増殖が抑制されることを報告しているが、その機序は不明である。今回、成熟骨芽細胞による骨髄腫細胞の増殖抑制の機序を明らかにするために以下の検討を行った。前骨芽細胞株MC3T3-E1にBMP-2を添加し骨芽細胞分化を誘導させた。このようにして誘導した成熟骨芽細胞との共存は骨髄腫細胞株RPMI8226やINA6に時間依存性に細胞死を誘導するとともにこれらのMM細胞のミトコンドリア量とATP産生量を抑制しAMPKのリン酸化を誘導した。AMP類似物質AICARによるAMPKの活性化はMM細胞に細胞死を誘導し、逆にAMPK阻害薬dorsomorphinは骨芽細胞によるMM細胞の細胞死を減弱させた。成熟骨芽細胞との共存よりMM細胞のPim-2とともにミトコンドリアの量や機能の調節因子であるPGC-1αの発現を抑制した。PimキナーゼはPGC-1αの発現を調節することが報告されているが、Pim阻害薬SMI-16aの添加によりMM細胞のPGC-1αの発現が減少し、AMPKがリン酸化した。以上より、骨髄間質細胞はMM細胞の抗アポトーシス媒介因子のPim-2の発現を亢進しMM細胞を増殖させるが、骨髄間質細胞から分化誘導した成熟骨芽細胞は、逆にMM細胞のPim-2の発現を抑制し、Pim-2の下流因子のMcl-1やc-Mycなどの向生存因子の発現減少とともにPGC-1αの発現抑制によるミトコンドリアの機能障害やAMPKの活性化によるエネルギー代謝の攪乱を介しMM細胞に細胞死を誘導すると考えられた。今後、さらに腫瘍抑制性ニッチのミトコンドリアに与える影響とその機序を検討予定である。
2: おおむね順調に進展している
in vitroの実験は、おおむね順調に進展している。今年度は、動物実験も含めてさらに腫瘍抑制性ニッチの機序と実態を探っていく予定である。
多発性骨髄腫の動物モデルにおいて、カテプシンK阻害薬やPim阻害薬によって骨形成を誘導し、腫瘍病変の病理組織および骨形態学的評価を行い、腫瘍細胞が残存局在している部位と腫瘍細胞が存在しない部位を構成する細胞の種類や初年度で同定した因子や生存シグナルの細胞内発現を免疫染色で評価し、細胞外基質の探索を行い、骨再生に伴う腫瘍抑制性ニッチの形成を実証していく。
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