研究課題/領域番号 |
16K18422
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
刈谷 龍昇 熊本大学, エイズ学研究センター, 特定事業研究員 (40757663)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 腫瘍関連マクロファージ / マウスモデル |
研究実績の概要 |
腫瘍組織はがん細胞に加えて炎症細胞や線維芽細胞、細胞外基質などの間質組織から構成され、これらは腫瘍微小環境を構築し、がん細胞の浸潤、悪性化、転移の誘導に重要な役割を果たしている。このような腫瘍微小環境はin vitroでは再現することが難しく、in vivoモデルの樹立が重要である。腫瘍組織に浸潤したマクロファージはTAMへと形質変化し、腫瘍の増殖をサポートすることが知られている。本研究はヒト化マウスを用いてTAM誘導マウスモデルを樹立し、TAMの誘導機序の解明と、TAMを標的とした新規治療法の確立に供するものである。 まず、高度免疫不全マウス(Nude GFP-Rag2/Jak3欠損マウス) の新生仔マウスに臍帯血由来の血液幹細胞(CD34陽性細胞)を移植し、ヒト化マウスを作成した。FACSにて、マウス体内でヒト免疫系が構築されたのを確認した後、ヒト胆管癌細胞株M213をマウス背部に皮下移植した。腫瘍の直径が5mmを超えた時点でマウスを解剖し、摘出した腫瘍に浸潤したヒト免疫細胞をFACSにより確認した。その結果、ヒトマクロファージの腫瘍組織への浸潤が確認されたが、極めて微量であり腫瘍組織内の非がん細胞の多くはマウス線維芽細胞とマウスマクロファージで占められていた。したがってTAM誘導マウスモデルを作成するにあたり、さらなる改良が必要であることが示唆された。そこで腫瘍微小環境構成細胞の一つである線維芽細胞に着目した。ヒト線維芽細胞株OUMSをヒト胆管癌細胞M213の培養上清中で培養すると、マクロファージの浸潤、増殖に重要であるIL-6, MCP-1の産生が強力に誘導されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り、初年度はヒト化マウスの作製、ヒト癌細胞の移植、TAMの表現型解析を行った。しかし移植したヒト胆管癌細胞より形成された腫瘤内へのヒトマクロファージの浸潤が予想外に少なく、マウスモデルの改良が必要であることが示唆された。その過程で、ヒト線維芽細胞が胆管癌細胞周辺に浸潤し、マクロファージの浸潤、増殖に重要であるIL-6、MCP-1を産生することが明らかとなり、間接的にTAMの誘導、浸潤を促進する可能性が示唆された。また、阻害剤ライブラリーを用いた解析から、これらサイトカインの産生誘導はステロイドやMAPK阻害剤、HSP90阻害剤により顕著に抑制されることを明らかとなり、当初の計画にはない知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、前年度に得られたヒト線維芽細胞と胆管癌細胞の相互作用の結果も踏まえ、さらなるTAM誘導マウスモデルの改良、in vivoにおけるTAM誘導阻害剤の効果検討を行う。 ① ヒト線維芽細胞のマクロファージ浸潤に与える影響の検討:前年度にヒト線維芽細胞ががん細胞周辺に浸潤することが明らかとなった。また浸潤した線維芽細胞がマクロファージの浸潤に重要なMCP-1を産生することから、トランスウェルを用い、マクロファージの線維芽細胞周辺への浸潤能を検討する。また、ヒト化マウスにヒト線維芽細胞と胆管癌細胞を共移植し、ヒトマクロファージが効率的に腫瘤内に浸潤するか、FACSと免疫組織染色により明らかにする。 ② 腫瘍組織へのマクロファージ浸潤に対する各種阻害剤の効果検討:前年度にステロイドやMAPK阻害剤、HSP90阻害剤がMCP-1、IL-6 産生を抑制することを明らかにした。これら阻害剤のマクロファージ浸潤に対する効果、腫瘍増殖に対する効果をin vitro、in vivoにて検討し、同時に毒性試験も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
熊本地震により、飼育していた免疫不全マウスが大量に死亡し、動物実験の進行が中断された。したがって前年度に計上していたマウスの飼育費、薬剤費を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
遅れた動物実験に必要な薬剤を購入し、TAM誘導阻害剤の効果測定、毒性試験を行う。また動物実験に必要なマウスの飼育費にも前年度余った予算を使用する。
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