研究課題/領域番号 |
16K18426
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
信末 博行 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (90525685)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 骨肉腫 / がん幹細胞 / 分化制御 / 脂肪分化 / アクチン細胞骨格 |
研究実績の概要 |
これまでに本研究室では、骨肉腫の起源細胞の単離を試み、未分化な間葉系幹細胞の性質を有するAO細胞と分化した骨・軟骨前駆細胞の性質を有するAX細胞の2種類の細胞を同定している。これらの細胞に抗癌剤(ドキソルビシン、シスプラチン等)を処理すると、AO細胞はAX細胞と異なり、薬剤抵抗性を示した。これらのことより、AO細胞を骨肉腫幹細胞と定義した。次に、抗癌剤に抵抗性を示すAO細胞にROCK阻害薬のFasudilを処理すると、濃度依存的に種々の脂肪分化特異的遺伝子群の発現が増加し、脂肪細胞への終末分化が誘導された。FasudilはAO細胞の増殖を濃度依存的に抑えることに成功した。さらに、AO細胞をマウスに皮下移植し、Fasudilを投与したところ、骨肉腫形成を有意に抑制することを見出した。また、骨肉腫形成細胞にドキソルビシンを添加するとAO-like細胞のみが生存し、これらにFasudilを処理すると、残った全ての細胞が脂肪細胞へと分化することも分かった。これらの結果から、抗癌剤とFasudilを併用することで、骨肉腫幹細胞をより効果的に脂肪細胞へと終末分化させ、腫瘍を根治できる可能性が強く示唆された。さらに、AO細胞においてFasudilを処理すると、アクチン細胞骨格の動態により制御される転写調節因子MKL1の核移行および転写活性が阻害されること、またMKL1のノックダウンによってAO細胞は脂肪細胞へと終末分化した。以上の結果から、FasudilによるAO細胞の脂肪細胞への終末分化において、MKL1が主転写因子として働いている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画通り、ROCK阻害剤Fasudilが骨肉腫幹細胞であるAO細胞の脂肪細胞への終末分化を誘導し、in vitroおよびin vivoにおいて腫瘍形成性を抑制することを示した。また、Fasudilと抗癌剤ドキソルビシンの併用効果も見出しており、臨床試験に向けての基盤を固めた。さらに、MKL1が骨肉腫幹細胞の脂肪分化を制御する主転写因子として働く可能性も見出しており、来年度のさらなる発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
主転写因子として期待されるMKL1が、どのような分子機構で骨肉腫幹細胞の脂肪分化を制御するのかを明らかにするために、MKL1と共に働く転写因、子さらにはその標的分子の同定を試みる。また、骨肉腫モデルにおいて見出したリード薬Fasudilが、他の組織型がん幹細胞においてアクチン動態を変化させ、転写を制御することにより、分化転換が誘導されるかを明らかにする。
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