ワールブルグ効果として知られるがん細胞の解糖系優位の代謝はがんの急速な増殖や悪性化に関わり、ゲノム変異やエピゲノム異常によって引き起こされることがわかってきたが、その制御機構の全容は不明であり解明が強く求められている。本課題研究では、新規代謝制御物質 CG56618 の標的分子を同定し作用機序を明らかにすること、さらにその標的分子のがん治療のターゲットとしての有効性を検証することを目的とした。 前年度までにメタボローム解析、in vitro での生化学的解析、ゲノム編集等遺伝学的解析によりCG56618 は細胞内で解糖系代謝酵素を標的とすることが明らかになっていた。最終年度ではCG56618による酸素消費速度増加メカニズムを解析した。 CG56618 がミトコンドリア呼吸を制御しうるグルタミンの取り込みや呼吸鎖複合体タンパク質発現量、脂肪酸分解経路に与える影響を検討した。その結果、CG56618 は脂肪酸合成を負に制御する AMPK を活性化することを見出した。さらに CG56618 による酸素消費速度増加は AMPK 阻害剤および脂肪酸分解阻害剤によりキャンセルされることから CG56618 は AMPK活性化、脂肪酸分解を介してミトコンドリア呼吸を活性化することが明らかとなった。すなわちCG56618 は解糖系酵素を阻害することで一時的に ATP 不足が起こり、その結果 AMPKが活性化し脂肪酸分解が誘導されることで酸素消費速度が増加することが考えられた。一方、CG56618 やその標的遺伝子のノックアウトは顕著な抗がん作用を示さないことからそれ単独をがん治療のターゲットとすることはできないことが示唆された。
|