本研究は、肺腺がんにおけるEGFR阻害剤感受性化因子としてよく知られる、EGFR L858R変異に着目し、この変異を有する細胞で翻訳レベルで発現変化がおこる遺伝子群を同定することで新たなバイオマーカー候補を探索することを目的としていた。 昨年度、ゲノム編集によりEGFR-L858R変異導入細胞を作製し、実際にEGFR阻害剤に感受性化を引き起こすことを確認した。今年度はEGFR-L858R変異導入細胞株と親株A549を用いリボソームプロファイリングを行い、翻訳レベルで発現変化が起こっている遺伝子群の同定を試みた。リボソームプロファイリングはトータルmRNAとリボソームに保護されたmRNAを次世代シークエンサーを用い定量的に解析することで、翻訳レベルで変化した遺伝子群の同定、mRNA上における新たな読み枠(ORF)の発見、uORF(upstream ORF)の翻訳変化などを検出可能にした新たな解析手法である。データ解析にはGalaxyなどの解析サーバーを利用した。 結果、L858R変異導入細胞株において426遺伝子が転写レベルで発現上昇し、205遺伝子が発現低下していた。さらに解析を進め、46遺伝子の翻訳が亢進し、75遺伝子の翻訳が低下していることを発見した。翻訳亢進した遺伝子群には分泌タンパク、エクソソーム構成タンパクなども含まれており、これらのタンパクは肺がん患者の血中バイオマーカーに利用できるかもしれない。 今後は、EGFR変異肺がん細胞や患者由来血漿サンプルを用い検証作業を進め、早期診断、治療効果予測に有用な新規バイオマーカー確立を目指す。
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