研究課題/領域番号 |
16K18457
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
奥 裕介 岩手医科大学, 薬学部, 助教 (50626843)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | WNT/beta-catenin / YAP/TAZ / 既存医薬品 |
研究実績の概要 |
当研究室では、ゼブラフィッシュを用いたWNT経路阻害剤のホールアニマルスクリーニング系を構築した。この系では、化合物の毒性と薬効を同時に評価可能である。本系を用いて、FDA承認既存医薬品をスクリーニングした結果、抗精神病薬に用いられるドパミン拮抗薬ピモジドを含む複数の化合物が同定された。 本系を用いて同定されたピモジドを含むWNT/beta-catenin経路阻害活性を持つ複数の化合物が、WNTに依存的なYAP/TAZの核移行を阻害することを明らかにした。この効果は、GPCRを介してYAP/TAZの核移行を促進するリゾフォスファチジン酸では見られなかった。したがって、WNT/β-catenin経路に特異的な効果であることが示唆された。 さらにこれらの化合物の作用機序予測を行う目的で、マイクロアレイを用いて遺伝子発現プロファイルを得た。PC-9細胞を、高濃度の化合物で6時間処理し、total RNAを得、mRNAの発現変動を、マイクロアレイによって調べた。がん研究所が作成したConnectivity scoring profileおよび、Broad Instituteが作成しているCmapを用いて、この遺伝子発現プロファイルを、既知化合物処理時の遺伝子発現プロファイルと比較することで、作用機序の予測を試みた。その結果、これらの化合物はいずれも共通した化合物の処理時と同様の遺伝子発現変動を生じていることがわかった。したがって、ピモジドを含むWNT/beta-catenin経路阻害剤は共通の機序に作用し、YAP/TAZの不活性化を生じる可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロアレイ解析を行うことで、ピモジドを含む複数のWNT/beta-catenin経路阻害剤が、共通の作用機序を持つ可能性を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
APCやAxin、beta-cateninおよび、LATS1/2やLATS1/2の上流で働くMST1/2キナーゼをはじめとする既知のWNT経路・Hippo経路の構成因子のsiRNAによる発現抑制や、利用可能である場合には恒常活性型変異体、YAP、TAZのリン酸化部位をアラニンに置換した恒常活性化変異体を導入し、ピモジドによるWNT-YAP/TAZ経路の不活性化に寄与する因子を同定する。 WNT経路の構成因子であるAPCに変異を有するAPCmin/+マウスに2 %デキストラン硫酸を飲水で1週間投与すると、ほぼ全例に大腸の腫瘍形成がみられる。本マウスに、デキストラン硫酸投与後、腹腔注射もしくは飲水によりピモジドを投与し、腫瘍の増殖が抑制されるかを調べる。YAP/TAZや、WNT経路、Hippo経路の構成因子の免疫組織染色を用いて調べ、Proof of conceptを得る ピモジドは、STAT3のリン酸化を阻害することが知られている。また、STAT3の不活性化によりbeta-cateninの発現量が低下し、WNT経路が阻害されることが知られている。そこで、ピモジドのSTATの阻害が、WNT-YAP/TAZ経路の阻害に関与するかを明らかにする。そこで、まずピモジドがSTAT3の活性化を阻害しているかについて検討する。さらに、恒常活性化型STAT3変異体の発現により、ピモジドの効果がキャンセルされるかを検討し、ピモジドによるYAP/TAZの阻害がSTAT3の阻害を介しているかを明らかにする。さらに、STAT3の阻害剤や、STAT3を活性化するJAKキナーゼの阻害剤ルキソリチニブが、ピモジドと同様にWNT-YAP/TAZ経路を阻害するかを検討する。以上の実験により、ピモジドのドパミン拮抗作用に非依存的なWNT-YAP/TAZ阻害活性の有無を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
抗体等の試薬購入費用としては使用額が少額であり、次年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度行う研究で用いる試薬等の購入に当てる。
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