キナーゼ活性化剤であるCMB-236はヒト乳癌細胞株MDA-MB231に対して受容体型チロシンキナーゼであるEGFRおよびEphA2のリン酸化を恒常的に亢進しており、カスパーゼ依存性の細胞死を誘導した。マルチなチロシンキナーゼの阻害剤として知られるスニチニブをMDA-MB231に同時添加したところ、CMB-236による細胞死は有意に抑制された。そこで受容体型チロシンキナーゼの活性化によってもたらされる細胞死について検証した。免疫組織化学染色によりEGFRの局在を観察したところ、EGFRはエンドサイトーシスにより細胞内に数多く取り込まれており、エンドソームのマーカーであるRab5およびRab9の免疫組織化学染色の結果、エンドソームが肥大していることがわかった。エンドサイトーシスに関与するPI3K classⅢを3-MAにより阻害したところ、CMB-236によるエンドソームの肥大は抑制され、さらにカスパーゼ依存性の細胞死も抑制された。CMB-236による癌細胞の変化を透過電子顕微鏡にて観察したところ、細胞内に数多くの空胞が観察され、癌細胞におけるホメオスタシス機構が破綻しているように思われた。ウエスタンブロットの結果より、CMB-236による受容体型チロシンキナーゼのリン酸化の亢進は一過性ではなく恒常的に活性化させていることから、細胞内での過剰なシグナルが結果的に大きな負荷となり、カスパーゼ依存性の細胞死を誘導していることが考えられた。キナーゼを阻害ではなく活性化させることでも細胞死を誘導できることから、新たな視点での抗癌剤の創薬の可能性を示唆する結果である。
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