研究課題/領域番号 |
16K18461
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
吉田 健史 近畿大学, 医学部, 講師 (40548632)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分子標的治療 |
研究実績の概要 |
EGFR陽性非小細胞肺癌に対してはEGFR阻害薬が著効するが、治療後のT790M耐性遺伝子の獲得による腫瘍の再燃が臨床的な問題となっている。第3世代(T790M 選択的)EGFR-TKIオシメルチニブが耐性克服の戦略として臨床導入されているが、PFSは10か月程度でありその効果は未だ十分とは言えない。我々は以前の研究で、SrcがT790M存在下におけるco-driverとして重要であることを確認したため、今回の研究でT790M陽性非小細胞肺癌細胞株(PC9GRおよびH1975)を用いて、第三世代EGFR-TKIであるASP8273およびオシメルチニブとSrc阻害薬ダサチニブの併用効果についてcell viability assay、immunoblotting、annexin-V binding assay、xenograft modelを用いて検討した。その結果、ダサチニブはASP8273およびオシメルチニブとの併用において単剤と比較して相乗的な細胞増殖抑制効果を示し、annexin陽性アポトーシス細胞を有意に増加させた。ダサチニブとオシメルチニブの併用はin vivoにおいても単剤と比較して有意に腫瘍増殖を抑制した。Immunoblotting assayによって両者の併用がSrcおよびEGFR下流のAkt・Erkの活性化を抑制し、またアポトーシス制御蛋白であるBcl-xLの発現を低下させPARPの開裂をもたらすことが示された。結論として、ダサチニブはSrcの抑制を介してBcl-xLを低下させアポトーシスを誘導することで、T790M陽性肺癌細胞株においてASP8273およびオシメルチニブの抗腫瘍効果を増強させることが示唆された。今後、臨床試験における第三世代EGFR-TKIとSrc阻害薬の併用効果の検証が待たれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたとおり、T790M陽性非小細胞肺癌細胞株(PC9GRおよびH1975)を用いて、第三世代EGFR-TKIであるASP8273およびオシメルチニブとSrc阻害薬ダサチニブの併用効果についてin vitroおよびin vivoで検討した結果、ダサチニブはASP8273およびオシメルチニブとの併用において単剤と比較して相乗的な抗腫瘍効果を示し、アポトーシスを有意に増加させた。またダサチニブはSrcの抑制を介してBcl-xLを低下させアポトーシスを誘導することが相乗効果の機序として示唆された。本研究の1つの目的であるT790M陽性肺癌に対する併用分子標的治療の基礎的検討に関して既にin vitroおよびin vivoの検討を終えており、本研究は順調に進捗していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
下記のとおり本研究のもう一つの目的であるASP8273自体への耐性機序の解明やその克服戦略に関する研究に移行する。T790M 耐性遺伝子を持つ肺癌細胞(PC9GRおよびH1975 細胞)に第3世代(T790M 選択的)EGFR-TKIASP8273 を低濃度から徐々に濃度を上げながら暴露させ、3 か月以上継代を継続することでこれらの薬剤に対する耐性細胞株を樹立する。また今後非小細胞肺癌の1 次治療から第3世代EGFR-TKI を用いる事も想定し、EGFR 遺伝子変異Ex19 陽性かつT790M 陰性(EGFR-TKI 獲得耐性なし)であるPC9 細胞からも同様の手法を用いて第3世代EGFR-TKI 耐性株を樹立する。樹立したASP8273 耐性株(PC9-ASPR、PC9GR-ASPR、H1975-ASPR)はシングルセルクローニングを行ったRTKスクリーニング、次世代シークエンスなど様々な手法を必要に応じて用いながら耐性機序の網羅的解析を行う。これらの方法により耐性に関わる分子の候補が見つかれば、その分子標的が実際のEGFR-TKI 耐性肺癌患者においても発現しているか否かを、組織検体を用いた免疫染色等を用いて確認する。また、耐性株においてその分子の阻害薬やSiRNA などを用いて耐性機序の解明や耐性克服の治療戦略の基礎的研究を行い、in vivoでもその効果を確認できれば臨床開発を検討する。
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