研究実績の概要 |
EGFR、ALK、ROS1肺癌に対する治療は確立されつつある一方で、HER2変異陽性肺癌に対する臨床試験でチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の有効性を示した報告もあるが、 有効な治療は未だ確立されていない。肺癌におけるHER2変異に対するTKIの効果を網羅的に調べ、さらに有効な薬剤で生じる獲得耐性についても検証した。前年から4つのHER2変異(A775_G776insYVMA:YVMA, G776delinsVC:VC, P780_Y781insGSP:GSP, M774delinsWLV:WLV)と野生型: wtをBa/F3細胞に導入した細胞と肺腺癌細胞株H1781(VC)に対して、HER2チロシンキナーゼ阻害剤8種(Afatinib, Dacomitinib, Neratinib, Poziotinib, Osimertinib, AZD5104, Lapatinib, Irbinitinib)の増殖阻害試験を行った。HER2変異の中で最も頻度の高いYVMA(75%)に有効な薬剤はNeratinib(IC50=10), Posiotinib(IC50=3.4)であった。Posiotinibが有効であると示したデータはこれまでになく、重要な結果である。 多くのチロシンキナーゼ阻害剤には治療中の耐性が多く確認されている。エチルニトロソウレア(ENU)は人為的に突然変異を誘発する化学変異原物質であり、これをYVMA, VCを有するBaF3細胞株に薬剤(Neratinib, Posiotinib)とともに曝露した。YVMA, VCともにC805Sの耐性二次変異のみを確認した。人為的かつ強制的に遺伝子変異を誘発した結果ではある。この変異はEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の耐性二次変異として知られるEGFR C797Sに相同していた。EGFR変異またはHER2変異肺癌に対するPoziotinibの臨床試験(NCT03066206)では病勢制御率73%であった。本研究の結果はこの臨床試験の結果をサポートするin vitroの初めてのデータである。
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