研究課題/領域番号 |
16K18465
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
岡本 有加 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター ゲノム研究部, 研究員 (50625217)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マイクロRNA阻害剤 / DNA損傷応答 / DNA相同組換え修復 / non-coding RNA |
研究実績の概要 |
マイクロRNA(miR)は遺伝子発現制御を介してがんの発症及び進展に大きく関与する。本研究では、miRを分子標的とした新たな治療法の開発を目指し、これまでに見出した標的候補miR-197の阻害による細胞増殖抑制の作用メカニズムを詳細に明らかとすることを目的としている。本年度は、miR-197阻害剤の特異性及び妥当性の確認を行うとともに、主にDNA損傷修復経路に着目し、作用機序の解明を進めた。 まず、miR-197アンチセンスLNA阻害剤(Anti-miR-197)が、標的のmiR-197を特異的に機能抑制していることを、(a)レポータープラスミドを用いた細胞内miR-197活性測定、(b) miRの網羅的な発現解析により確認した。また、miR-197の過剰発現による、Anti-miR-197による細胞増殖抑制活性の中和も確認した。 次に、予備的検討として実施した、Anti-miR-197による細胞内の応答のトランスクリプトーム解析により、DNA損傷応答が誘導されている可能性が考えられたことから、Anti-miR-197による (a) 細胞内におけるDNA損傷レベルの検出、(b) DNA修復経路への影響の検討への影響を確認した。その結果、Anti-miR-197を処理した細胞内では、BRCA1, BRCA2等の相同組換え修復因子(HR因子)の発現低下が見られ、同時にDNA2本鎖切断マーカーであるH2AXのリン酸化が認められた。更に、Anti-miR-197処理時には、DNA損傷誘導性の薬剤に対する修復シグナルの活性化も抑制されていることが明らかとなった。 現在は、Anti-miR-197による細胞増殖抑制が、HR修復因子の発現低下を介して起こっているかを検討すると共にHR修復因子発現低下のメカニズムについて、解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、マイクロRNAを分子標的とした新たな治療の実現に向けて、標的候補として見出したmiR-197の阻害による細胞増殖抑制の作用メカニズムの詳細な解明を目的としている。本年度は、miR-197阻害による細胞内の遺伝子発現変動から予測される現象が実際誘導されているかの検討を行うことを目的とした。遺伝子発現変動パターンから、DNA損傷応答が誘導されていることが予測されたが、実際に、Anti-miR-197処理により、細胞内でBRCA1などのHR修復因子のタンパク質発現が減少し、DNA2本鎖切断が増加していることが明らかとなった。更に、Anti-miR-197処理により、DNA損傷応答シグナル伝達が損なわれていることも明らかとなった。これらのことから、順調にスタートしたと言える。次年度は、HR修復因子の発現低下により、複製ストレスが増加することが細胞増殖抑制のメカニズムとなっているかを確認すると共に、発現低下のメカニズムと関与しているmiR-197の標的分子を明らかにすることで、miR-197の、治療標的としての妥当性を検証したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた結果から、Anti-miR-197による細胞増殖抑制の作用機序として、HR修復因子の発現低下による細胞内における複製ストレスの増加が関与していることが考えられた。そこで今後は、実際にHR修復因子の発現低下が細胞増殖抑制に関与しているかを検証し、発現が低下する複数のHR修復因子の中で特に表現型に重要な因子を特定したいと考えている。また、Anti-miR-197による、HR修復因子発現低下のメカニズムを、転写、翻訳レベルや安定性などに着目し、関与するmiR-197の標的分子も含めて明らかにしていきたいと考えている。miR-197の標的としては、non-coding RNAであることも視野に入れ、これまで遺伝子発現解析に用いていたものに加えてlong non-coding RNA (lncRNA)の網羅的な発現解析を開始したところである。更に、Anti-miR-197処理により、DNA損傷誘導性の薬剤に対する細胞内の損傷シグナル伝達も損なわれることから、既存のDNA損傷誘導性の抗がん剤との合成致死誘導が可能であるかの検討も予定している。 こういった解析を進めることにより、miR-197の標的としての妥当性を確立すると共に、miR-197阻害による新たながん治療法の開発に発展させていきたいと考えている。
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