研究課題/領域番号 |
16K18467
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
大槻 貴博 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 研究員 (10593642)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 治療ワクチン / HCV / 組換えワクシニアウイルス / 細胞性免疫再賦活化 |
研究実績の概要 |
C型肝炎ウイルスは細胞性免疫を抑制し持続感染が成立するが、評価できる小モデル動物がないため治療ワクチンがない。我々は慢性C型肝炎の分子病態を解析するために、polyIC投与により任意の時期にHCVの構造蛋白質CN2発現トランスジェニック(Tg)マウスと、HCV全蛋白質CN5発現Tgマウスを作製した。これらのマウスはpolyIC投与後、Cre-loxPシステムによりインターフェロン応答性にHCV蛋白質を発現するため、正常な免疫応答下で、急性、慢性C型肝炎、肝硬変、肝細胞癌を呈する。このマウスにHCV非構造蛋白質N25発現組換えワクシニアウイルス(rVV-N25)を皮内接種したところ、C型肝炎の病態は正常化し、細胞性免疫の抑制解除と同時に再賦活化することで肝臓内ウイルス抗原を特異的に排除することを見出した。しかし、慢性C型肝炎が進行し、長期抗原暴露された細胞性免疫の抑制が強い老齢のCN2マウスやCN5マウスでは、rVV-N25の治療ワクチン効果が弱いことが分かっていた。これらのマウスでは、樹状細胞障害などにより細胞性免疫が抑制状態となっているため、より強力な細胞性免疫の抑制解除と再賦活化が重要である。これまでに領域の異なるDNAワクチンとrVVとの繰返し接種(prime-boost法)により強い細胞性免疫を誘導できる事を見出している。そこでHCV各遺伝子を発現するワクチンを作製し、HCV抗原長期暴露された老齢CN5マウスに、DNA/rVV heterologous prime-boost接種し、病態正常化、ウイルス抗原排除効果に関与するHCV遺伝子領域の同定を試みた所、NS5A-DNA/rVV-CN2との組合せで肝臓内ウイルス抗原が減少したことから、N25領域による細胞性免疫の抑制解除と再賦活にはNS5Aが関与していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに、領域の異なるHCV-DNAワクチンとrVV-HCVとのheterologous prime-boost接種により肝臓の病態正常化作用および肝臓内ウイルス抗原の排除効果を見出した。本年度は、N25のどの領域が細胞性免疫の抑制解除と再賦活化によるウイルス抗原排除に関与するのか明らかにするために、HCV各遺伝子を発現するDNAワクチンの作製するためにHCV遺伝子を鋳型としてPCRでHCV各遺伝子を増幅し、pCAGGS vectorに挿入しDNAワクチンを作製した。次にpolyIC投与10ヶ月以上のHCV全蛋白質を長期発現した老齢CN5マウスに、HCV遺伝子の各領域を発現するDNAワクチンとrVV-N25あるいはrVV-CN2とのDNA/rVV heterologous prime-boost接種した。HE染色による肝臓の病理解析を行った所、Emp-DNA(vectorのみ)/rVV-N25を含めたrVV-N25でboostしたheterologous prime-boost接種群では、いずれも老齢CN5マウスの肝臓の病態を正常化した。一方、Emp-DNA/rVV-CN2群では、rVV-CN2単独接種同様に肝臓の病態は正常化しなかったが、領域の異なるN25および各非構造蛋白質を発現するDNAワクチンとrVV-CN2の組み合わせにより肝臓の病態がより正常化した。次に肝臓内ウイルス抗原量を定量した所、治療ワクチン効果の出にくい老齢のCN5マウスでも、CN2-DNA/rVV-N25またはNS5A-DNA/rVV-CN2接種群では、コントロール群に対して有意に肝臓内のウイルス抗原の減少が認められた。CN2マウスで効果の見られたN25-DNA/rVV-CN2群は、HCV全蛋白質を発現する老齢のCN5マウスでは、肝臓内ウイルス抗原の有意な減少は認められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は抗原排除時の肝臓傷害性を調べるために血清中のALT(肝傷害の指標)の測定、炎症性サイトカインをBio-plexで定量、ワクチン接種による宿主の免疫学的な解析のためにワクチン接種後の肝臓内リンパ球(IHL)および脾細胞(SPL)、全血から末梢血単核球(PBMC)、鼠径リンパ節から白血球(ILN)のFACSによりIFN-γ産生型の活性化CD4T, CD8T細胞およびDCなどの抗原排除に係る免疫細胞の動態解析を行う予定である。さらに各HCV蛋白質をそれぞれ発現するマウスT細胞株(EL-4細胞)と脾細胞を5日共培養し、ELISPOT法によりIFN-γ産生CD4T, CD8T細胞数を定量し、どの抗原刺激により細胞性免疫が賦活化されたか調べ、非構造蛋白質(N25)のどの領域が細胞性免疫解除とウイルス抗原排除に関与するか明らかにする。またDNA/rVV heterologous prime-boost接種により細胞性免疫抑制解除に関与する既知および未知の免疫細胞集団の1細胞レベルでの解析をするために、数百-数千個のsingle-cell transcriptomeデータを包括的に同時解析出来る革新的な技術(Nx1-seq法)を用いて、DNA/rVV heterologous prime-boostワクチン接種されたC型肝炎モデルマウスの肝臓内白血球(IHL)のtranscriptome解析を行い、DNA/rVV heterologous prime-boostワクチン接種によりウイルス抗原排除に関与する肝臓内免疫細胞にどのような変化が起きたかを解析する。得られたデータから免疫細胞毎に有意に増減した遺伝子を選別し細胞性免疫解除に関与する因子を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定したツパイへのHCVの持続感染実験において、持続感染した個体が安定せず、条件を再検討するため。またそれに伴いツパイへのワクチン接種の条件検討も行う必要があるため。
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