研究課題/領域番号 |
16K18471
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三好 知一郎 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (60378841)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | L1 / レトロトランスポゾン / ゲノム / DNA修復 / 転移 |
研究実績の概要 |
LINE-1 (L1) はヒトゲノムの約17%を占める転移因子で、高頻度で遺伝性疾患を引き起こす変異を伴うと考えられている。このようにL1は現生人類における多様なゲノムバリエーションを生み出す原動力となる一方で、破滅的な遺伝情報の破壊も引き起こす。しかしその転移における基本的な分子機構はよく分かっていない。本研究ではその中でも殆ど未解明の宿主因子によるヒトL1 の転移制御機構について研究を行い、将来的には未知のDNA 修復メカニズムの発見にもつながると予想され、普遍的なゲノム維持機構解明に向け、新たなアプローチになると期待される。 実際、L1と相互作用する宿主因子を調べたところ、機能がよく分かっていないDNA修復因子が複数含まれていることが分かった。それらの機能解析を通して、1)これらの修復タンパク質がL1が引き起こすDNA損傷を特異的に認識すること、2)損傷部位により活性化された修復タンパク質が他の修復タンパク質の集合に関与すること、3)これまでに明らかとされていなかった新規の修復経路の同定に至った。 L1が転移する際に、宿主防御機構による様々な抑制制御を受けることが知られているが、上記で明らかにしたDNA修復因子群が、その防御機構の1つであるDNAの脱アミノ化を抑制する活性を持つことも明らかにした。以上の結果から、転移因子が宿主因子を巧妙に利用することで、宿主防御機構から逃れ、現生人類でも転移し続ける分子機構が解明されつつある。また今回発見されたDNA修復メカニズムが、ゲノム恒常性維持にどのように貢献しているのか、新たな重要課題が提示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定どおり、L1と宿主因子の相互作用の解析を通じてL1の転移メカニズムを明らかにしつつある。まず第一に宿主DNA修復因子がL1によって生じるDNA損傷を認識すること、またこれによって修復因子が活性化されること、この活性化によって他の修復因子を呼び込むこと、そして呼び込まれた修復因子がL1の転移頻度の上昇に寄与することを明らかにした。このような宿主因子によるカスケード反応の存在は、従来のL1転移機構において全く知られておらず、そのメカニズムの解明に向けて前進した。またさらに、DNAの脱アミノ化反応によってL1の転移は阻害されることが報告されているが、本研究によって同定された新規のL1相互作用因子の中には、これを抑制する活性があることを試験管内の実験によって初めて明らかにした。これは、L1によるDNA損傷時だけではなく、グローバルなゲノム損傷応答とDNAの脱アミノ化が拮抗していることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
現段階で、L1が巧妙に宿主防御機構をくぐり抜け転移するメカニズムも分かってきたが、これは従来の構図ーL1と宿主細胞の進化的軍拡競争ーからさらに拡張した議論へと展開するだろう。すなわち、ゲノム恒常性を維持する分子機構の間にも拮抗作用が存在し、そのバランスを制御する分子機構(L1あるいは宿主防御どちらへ比重をかけるのか)を解明することで、生体の恒常性を解く手がかりが得られるだろう。L1と相互作用する因子の中には機能未知の因子が含まれており、質量分析等の解析から、これらの因子はやはりゲノム損傷・複製に関与する可能性が示唆されつつある。今後も宿主因子の制御に基づくL1の転移機構の解明を続けることで、ゲノム恒常性とその破綻によって起こる遺伝的疾患の解明へと繋がる基盤研究を実施して行く予定である。
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